November 17, 2010

「INSPIRED」プロダクトマネジメントの必読書

Inspired: How To Create Products Customers Love

Inspired: How To Create Products Customers Love

本書「INSPIRED」はソフトウェア業界においてのプロダクトマネジメントを学ぶために必読の書である。著者のMarty Caganは、20年以上にわたり、Netscape、ヒューレット・パッカード、AOL、eBayといったシリコンバレーの代表的企業で働いてきた経歴の持ち主。もっとも最近では、eBayでプロダクトマネジメントおよびデザイン部門のシニアバイスプレジデントを務めた。

序章のところで、Martyはヒューレット・パッカードでの経験を語っている。

1980年代半ば、Martyはヒューレット・パッカードでソフトウェアエンジニアとして働いていた。会社の重要なプロジェクトを任せられ、素晴らしいチームメートと共に深夜まで、週末も犠牲にして一年以上も必至に取り組んだ。完成したプロダクトは会社の望むとおりの出来栄えとなった。ソフトウェアの国際化もし、数ヶ国語にローカライズした。セールスチームのトレーニングをし、プレスでの発表では素晴らしい反響をもたらした。プロダクトの出荷のための祝杯を交わした。しかし、問題がひとつだけ発生した。

誰も製品を買わなかったのだ。

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エンジニアがどれだけ優秀であろうとこうしたことは起こるのである。プロダクトのスペックは誰がどのようにして決めるのか、取り組むプロダクトが適切な仕様であるかどうやって判断するのか?上記問題は、こうしたプロセスをきちんと実行しなかった結果起こったのだ。このための重要な役割を果すのが「プロダクトマネジャー」なのである。本書では、製品開発におけるプロダクトマネジャーの正しい役割を定義し解説し、成功するプロダクトを開発するためのノウハウをプロダクトマネジャーの役割を中心に説いている。

私もシリコンバレーの老舗企業で10年以上ソフトウェアエンジニアとして働いた経験があるが、あー、これそうそう、という例ばかりが載せられている。プロダクトマネジャーの役割の解説が中心だが、もちろんエンジニアやエンジニアリングマネジャー、ユーザエクスペリエンスデザイナーなど製品開発に携わるチームメンバーならば誰もが読むべき一冊だと感じる。

「INSPIRED」は、Marty Caganがもともと個人のブログで書いた内容をまとめて出版されたものであり、英語版はアマゾンで購入できる。英語が苦手という人に朗報は、ついにこの本の日本語翻訳がウェブで隔週で少しずつ無料公開されることになった。公開サイトはこちら。私もほんの少しだけ翻訳に協力させていただいた。翻訳プロジェクトも終盤に近づいた頃に参加させていただいたので、今のところは訳し忘れになっていたブロックをところどころ訳させていただいただけなのだが、これから必要に応じてコンテンツのレビューもすることになっている。サイトの更新はメール購読することもできるので、ご興味のある方は是非!

今回、日本語翻訳で公開されたのは、ソフトウェア開発チームでの役割分担についてが定義されている第一章。プロダクトマネジャー、プロダクトマーケティングマネジャー、プロジェクトマネジャー。この辺りは企業によって役割の定義が違ったり、混乱も多い。私個人の経験では、プロジェクトマネジャー、プログラムマネジャー、エンジニアリングマネジャーの役割が混乱しやすく、皆で揉めあったのを覚えている。「他のチームのエンジニアとコンタクトをするのは誰の役割?え、エンジニアリングマネジャーでしょ、いや、それはプログラムマネジャーの役割だ。いや、技術の詳細を説明するにはエンジニアリング。」みたいに。

業界内で役割の定義のバリエーションはあるし、スタートアップではひとりひとりが幾つもの役割を担わなければならないだろう。しかし、タイトル云々ではなく、どのような役割を割り振る必要があるのか、なぜそうしなければならないのか、という疑問がこの第一章を読めばかなり明確になると思う。

November 11, 2010

TechStars と「起業にまつわる入門書」

TechStarsというのは、Y Combinatorのようなベンチャーファームでコロラド州のBoulderにオフィスがある。設立は2006年。Brightkiteなどもここ出身のスタートアップである。以下はTechStarsのウェブサイトから掻い摘んだ要点。
  • 主にウェブやソフトウェア関連のテクノロジーの企業が対象。
  • 各スタートアップで3人の創業者まで、創業者1人につき$6,000の出資をしてくれる(つまり最高$18,000まで)。
  • メンタープログラムへの参加および上記投資と引換に6%の株式を取得する。
  • 冬はNew York、春はBoston、夏はBoulder、秋はSeattleと季節によって活動拠点を巡回させて募集をし、各季節に3ヶ月の育成プログラムを選抜されたチームに提供する。
  • 各季節のプログラムに参加できるのは10社のみ。去年は600社からの応募があった。
  • メンタープログラムでは、週に2〜3回メンターを招待してカジュアルな形式でディナーを食べる。メンターは、成功した起業家、投資家、弁護士など多岐にわたる。
  • メンタープログラム終了後には、75%のスタートアップがエンジェルやベンチャーキャピタルから追加投資を受けるか利益を出す状態になっている実績がある。
  • 只今2011年のBostonとNYCでのプログラムの参加者を募集中

Y Combinatorとよく似ていますね。

MyBlogLogのファウンダーを招待してのメンタープログラムセッションの様子を撮影した録画がこちらにあるのでご興味がある方はどうぞ( 90分)。




Do More Faster: TechStars Lessons to Accelerate Your Startup

Do More Faster: TechStars Lessons to Accelerate Your Startup

TechStarsはシリコンバレーには拠点を置いていないが、ファウンダーのDavid CohenとBrad Feldが先月パロアルト市で開催した講演に参加する機会があった。彼らが共同編集した「Do More Faster」の出版記念も兼ねた会で、サイン入りのものをプレゼントに頂いのでちょっとご紹介。当然コンテンツは起業のノウハウにまつわるもので入門レベル。テーマごとにTechStarsのファウンダー、メンター、プログラム卒業生達が自身の経験からアドバイスを書き綴ったエッセイを寄せ集めて構成されている。各エッセイはどれも短くてコンパクトにまとまっているのが読みやすい。英語も平易なので英語をあまり読み慣れていない人でもすらすら読み進められると思う。エッセイの中身は実践的なものばかりで、これから米国で起業しようとする人が必ず直面するテーマが網羅されている。例えば、第六章の「Legal and Structure」は以下の7つのエッセイで構成されている。

Theme 6: Legal and Structure

  • Form the Company Early
  • Choose the Right Company Structure
  • Default to Delaware
  • Lawyers Don't Have to Be Expensive
  • Vesting Is Good for You
  • Your Brother-in-Law is Probably Not the Right Corporate Lawyer
  • To 83(b) or Not to 83(b), There Is No Question

「Form the Company Early」:友人数人と意気投合して取り敢えずプロジェクトを始めてしまった場合でも、契約を巻き込んだり訴訟沙汰になる可能性があるならば、個人の資産を守るためにも早い段階で企業登録しておくべき。このことは、プロジェクトのオーナーシップを明確にさせて後々の利益配分関係のトラブルを防ぐためにも重要。「Choose the Right Company Structure」: S-Corp、C-Corp、LLCなど、どんな形の会社にするのがよいのかの説明。やはり登録するならデラウェア州?などなど。

他の章でも、ファンドレイジングはどうするか、どのような構成のチームを作るのがよいのか、事業計画はどうするかといった「起業の入門書」として充実した内容。実際には自分で起業しないという人でも、カジュアルなエッセイ形式なので興味があれば誰が読んでも面白いと思う。講演が開催された時点ではまだリリースされていなかったKindle版も今はアマゾンで発売されている。

November 10, 2010

ティナ・シーリグのスタンフォード大講義録画

今年前半に日本でも話題になった「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義」の著者Tina Seelig。来月ついに日本でも講演が予定されているそうだ。

Tina Seeligはスタンフォード大学工学部の技術経営を教える学科がホストするスタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム(STVP)のエグゼクティブ・ディレクターである。スタンフォードでの実際の講義の公開録画を幾つか見つけたのでここにリンクを張っておくことにする。本を読むだけでは伝わってこないが、録画を観れば彼女がどんな感じの人物なのかや講義の雰囲気などがわかる。

録画は2006年と2009年のもの。講義のコンテンツは本でほとんどカバーされているが、2009年の方は講義全体の完全収録でスタンフォードの学生が作成したビデオクリップも紹介されており臨場感がある(アマゾンにも一部が掲載されている)。

ちなみに、これら録画を掲載してあるSTVP主催のECornerというサイトにはスタンフォード大にゲスト講師としてやってくる起業家を中心とした著名人らの講義録画が公開されている。例えば、最近のものではZappos.comのCEO Tony Hsiehのものがある。Twitterのアカウント@ECornerをフォローすれば次のゲストの情報などの通知を受け取ることができるので、ご興味のある方はどうぞ。


20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義
ティナ・シーリグ
阪急コミュニケーションズ
売り上げランキング: 132


どのような逆境も上手く利用して好転させてしまえというメッセージが繰り返し語られるこの本は、永久保存版で座右の書だと思っている。何かに躓いたときだけでなく、定期的に読み返したい。もちろん、20歳の人だけではなく何歳であろうと目から鱗の内容満載の一冊である。

何事も"Turn Problems into Opportunities"のスピリッツで。

October 28, 2010

iPhoneとトロイの木馬


今日のTechCrunchの記事にも取り上げられていたが、どうやらAppleがiPhoneとキャリアを切り離そうとしている動きがあるという。記事にもあるように、これはGoogleがNexus Oneでやろうとして失敗した試みだ。Appleが同じことをやろうとして上手くいくだろうか?

Googleのやり方は紳士的であったと思う。Nexus Oneは、キャリアの縛りから消費者を開放しようと試みる、消費者の利益を優先するプロジェクトであり、Googleはその目的をストレートに表現して売りに出した。表現がストレートだったから、デバイスを99ドルで販売することはキャリアから拒絶されたし、プロジェクトは終了に追い込まれてしまった。素晴らしい電話だったのに。Androidが世の中にまだ浸透していなかった時期に、この作戦はまずかったと思う。

AppleのiPhone売り出しにまつわる戦略は天才的だ。そもそも、Appleが高性能な小型携帯用コンピュータを「電話」として売り出した作戦に我々は見事にひっかかった。携帯電話という広くあまねく行き渡ったマーケットに乗っかり、これは電話ですよとiPhoneは売り出されたのだ。小型携帯用コンピュータとして売りだされていたら、ほとんどの人は見向きもしなかったであろうに。iPhone 4に至っては、もはやこれを「電話」と呼ぶのはまったく相応しくないほど、いよいよ電話の機能は瑣末なものになってしまっている。それにもかかわらず、いまだ堂々と「phone」というストリングが製品名に入って売られている。iPhoneを電話として売り出すのは、音楽再生装置のついた自動車を「動きまわれるミュージックプレイヤー」ですよと売り出すようなものだったのだ。消費者は小型コンピュータを電話だと思い込み、それは素晴らしく便利だという評判とともにじわじわと世の中に受け入れられ、普及してしまったという茹でガエル状態である。

さらには、かつて「電話」と呼ばれていた(いや、今はまだ呼ばれている)ものさえもその高性能な小型コンピュータが供給する様々な便利な機能によって置き換えられようとしている。こうなってくると、データプランさえあれば通話プランがなくてもいずれ通話ができるようになるということはエンジニアや先見の明のある人たちは始めから知っていただろう。そして、その解っていた人たちはiPhoneにプッシュ通知機能が付いたとき、わざわざ電話会社にテキストメッセージのための料金を払わなくてもよくなったという事実に小躍りししたはず。実際のところ、私の周りの人間では、料金を払ってテキストメッセージを送ってくる人はほどんどいなくなった。

話がちょっとそれてしまったが、もとい、AppleがNexus Oneと同じような試みを今したらどうなるか?既にiPhoneはマーケットに広く浸透している大人気の製品。だから少なくとも、AppleはGoogleがNexus Oneを売りに出した時より強気に出られる立場にいる。Nexus Oneが不評だった一因は、Webストアでしか買えず、直販店がないからユーザは満足なサポートが受けられないということだった。しかし、Appleには直販店があり、ジーニアス・バーという最高に整備されたカスタマサポートがある。記事には答えはもうすぐ分かると書いてある。

iPhoneは実はトロイの木馬だったのではないか。だから、私は家に他人を招き入れるときは慎重になろうと思う。




October 23, 2010

シリコンバレーの見所は



日本からシリコンバレー訪問にやってくる方に、何処が見所ですかと質問されることは多いが、Paul Grahamのブログに彼の推薦する見所が紹介されていた。シリコンバレーは物見遊山目的で来るには相応しくないところだが、出張や勉強が目的で来ても見所は気になるものである。

1. スタンフォード大学 (Stanford University)

2. ユニバーシティ・アベニュー (University Avenue)

3. ラッキーオフィス (The Lucky Office)

4. オールド・パロアルト (Old Palo Alto)

5. サンドヒル・ロード (Sand Hill Road)

6. カストロ・ストリート (Castro Street)

7. グーグル (Google)

8. スカイライン・ドライブ (Skyline Drive)

9. ハイウェイ 280 (280)

解説は原文を参照していただきたいのだが、以下、ちょっと説明を付け加えておく。

ラッキーオフィスとは、2番目に推薦されているユニバーシティ・アベニューというパロアルト市の目抜き通りの165番地にあるオフィスビルのことである。Logitech、Google、PayPalなど、大成功した企業が起業した当初このビルにオフィスを構え、会社の事業がトントン拍子に上手く行き、社員の増加にともなって他のもっと大きなオフィスに引っ越すというパターンが定着しているので、縁起のよいビルとして知られている。日本の六本木にある、言わずと知れた例のビルと対照的である。

もともと、このラッキーオフィスはAmidiさんというイラン人の移民一家が1988年に購入したものだ。Amidiさん一家はユニバーシティー・アベニューで絨毯屋を営んでいたが、商才に長けており、ラッキーオフィスビルのオフィスをPayPalなどに貸出するときにも、そうした企業の成功の可能性を鋭く見込み、投資をして財を成した。周辺のオフィスビルも次々と購入してスタートアップに貸してビジネスを展開しているようだ。詳しくは、こちらこちらのサイトに写真や動画付きの記事があるのでご興味のある方はどうぞ。

Paul Grahamも指摘するように、ユニバーシティ・アベニューのような繁華街で食事をして人に会い、またすぐに仕事に戻れる環境は重要である。オフィスビルと繁華街がほぼ必ず密接して構成されている日本の街の事情からは想像しにくいかもしれないが、シリコンバレーの仕事環境ではむしろオフィスビルに独自のカフェテリアがなく、徒歩で行けるところにレストランもない場合が大半。

そうなると、車で昼食を食べに行くことになり、油断していると1時間半や2時間がすぐに経ってしまう。だから、Googleのように社内に無料の食べ物を用意しておくのはとても合理的なことなのだ。夕食も会社で無料で食べれたり、オフィスを出てすぐの場所で食べることができれば、食後仕事に戻る人が多くなる。こう考えると、ユニバーシティ・アベニューのオフィス賃貸料が高沸してしまった今、マウンテンビューの繁華街であるカストロ・ストリート周辺にスタートアップのオフィスが増えていることは理解できる。

4番目に紹介されているオールド・パロアルトというのは、シリコンバレーの中核であるパロアルト市髄一の高級住宅街。歴史的な建物に混じって、モダンなデザインの大豪邸が建ち並んでいるので建築好きな人は行ってみるとよいと思う。私は建築を見るのが好きなので、このエリアを散歩コースにするのがとても気に入っている。健康のために始めたウオーキングだが、トレイルに行くよりもオールド・パロアルトの方が何マイル歩いても飽きないぐらいだ。つたの絡まるレンガ造りの館の立つ庭園をさりげなく覗き込むと、ドレスデンの焼付人形のような女の子が噴水の影で遊んでいたりして、ちょっとした別世界が垣間見れる。

280は私も大好きなハイウェイ。湖があったり牛が草を食べている牧草地が見えて美しい景色が楽しめる。天気のよい日にここを車で走るのは最高の気分である。サンノゼからサンフランシスコに車で移動する場合、ほぼ平行して走っているハイウェイ280かハイウェイ101の選択があるが、自然豊かな280がやはりよい。101はPaul Grahamも指摘するように「ugly」であるがオラクルなどのハイテク企業も脇に見えたりするので、始めて来る人は行きは280、帰りは101というのもよいかもしれない。

シリコンバレーに来て何をする?

シリコンバレーに短期滞在で来て、さらに人に会ったり勉強したりするにはどうするのがよいかというのもよくある質問だが、JTPASVJENなど日本人団体のイベントは数に限りがあるし、日本人ばかりとネットワーキングするのも面白くない。だから、現地の人たちとも交流するためにはEventbriteMeetupで興味のあるイベントを探して参加するのをおすすめする。Eventbriteはテクノロジー、ビジネスの大規模なイベントやキャリアフォーラムが中心。Meetupはもう少し小じんまりととした、例えばiPhoneプログラミング勉強会のようなものが中心だ。GoogleやFacebookのキャンパスが会場になっていたり、こうした企業が主催するセミナーもある。無料で参加できるものも多数あるので積極的に利用したい。

何処に泊まるか?

最後に、泊まるところについて。ホテルが最も手軽だが、若い学生さんなどアメリカ人と英語の話せる環境で安価にスティできる方法はないのかと聞かれることがある。この間、そうした質問をしてきた学生さんにはcraigslistのsublets/temporaryなどのセクションで探してみたらと提案したところ、うまくホストファミリーが見つかったそうだが、前回のエントリーにもあったY Combinator出資のスタートアップAirbnbのサービスで探してみるのも面白そう。

AirbnbのサイトをPalo Altoで検索してみたら、自宅のロフトにベッドを用意したので一泊$30だとか、ソファベッドかエアーベッドで一泊$45だがゲストも一人$10出せば泊まれる、などの格安プランが見つかる。$200程の値段では、素敵な暖炉やキッチン付きのコテージが借りられる物件など、ホテルより居心地がよさそうだ。面白いものでは、"Mountain View Hacker House"というものもある。詳細には「一泊$50、寝袋と枕をもってくれば我が家の居間で寝泊りOK。Y Combinatorに出資をうけたファウンダー、元インターン、Facebookファンドの従業員が住んでいます。」とある。各エントリーには、実際に宿泊したことのあるユーザからのレビューもあるのが安心だが、もちろん、こうしたサイトを利用しての宿泊にはリスクも伴なうのでトラブルには十分ご注意してください。

今回はこんなところで。

October 21, 2010

起業家にとって大切な資質 by Paul Graham

Forbesに掲載された、Paul Grahamによる「What It Takes」という記事。Paul Grahamが起業家にとって大切だと思う資質を4項目挙げて説明しているのでコンテンツをご紹介する。投資家はビジネスプランを最重視する傾向があるが、Y CombinatorのファウンダーであるPaul Grahamは「アイディア」よりまず「人」が大切だという。


決意(Determination)
Y Comobinatorを始めた当初は「知性(intelligence)」が一番大切だと思っていた。しかし、ファンダーがバカではだめなことは当然だが、知性が一定レベルまで到達していれば「決意(determination)」していることが一番大切なのだ。沢山の障害を乗り越えていかねばならないのだから。

WePayのBill ClericoやRich Abermanがよい例。Bill Clericoが電話してきたら、言われた通りにした方がよい。彼は絶対に諦めないから。


柔軟性(Flexibility)
決意していることが大切とはいえ、「夢は絶対に諦めない」と執着している感じなのはだめ。スタートアップの世界は変化が激しいから、状況に応じて夢を調整できるようでないといけない。

GreplinのDaniel Grossがよい例。彼は電子商取引の悪いアイディアをもってYCに応募してきた。他のことをやるなら出資してやると言ったら、すんなりOKと受け答えて新しいアイディアを次々と出してきた。


創造力(Imagination)
もの凄く新しいアイディアを思いつく能力は、既存の問題を素早く解決する能力よりずっと重要。スタートアップの世界では、よいアイディアというのは始めのうちは悪く思える場合が多い。明らかによいアイディアであるのなら、もう誰かが既にやっているだろうから。だから、丁度よい加減にクレイジーなアイディアを思いつく能力が必要なのだ。

自分の部屋や倉庫など、空いているスペースをホテルのように希望期間貸出するオンラインサービスのAirbnbがよい例。他人の部屋に泊まりたい人がそんなにいるとは想像もしなかったが、ファウンダーたちがすごく気に入ったからとにかく出資してみたところ、このアイディアのクレイジー加減は正しかったことが証明された。


いたずらっ子であること(Naughtiness)
起業家の大半は善良な人間だが、目の中を覗いていみると海賊のようにギラギラしている傾向がある。道徳観はあるが、クソ真面目ではない、要するに「いたずらっ子」だ。ルール破りは大好きだが、絶対にやってはいけないことはわきまえている。

LooptのSam AltmanはYC卒業生の中でも特に優秀な人物なので、彼に「君のような人材を発掘するには、Y Combinatorの応募用紙にどんな質問を書いておいたらよいのだね?」と訊ねてみた。彼は「これまでにハッカー行為をしたのはどんな場面か質問すればよい。」と答えた。今では、この質問はYCが応募者を選抜するときに判断材料とする最も重要な質問事項となっている。


記事のコンテンツは以上。シリコンバレーにいると、四番目の「いたずらっ子」というのは起業云々にかぎらず、新しいアイディアがおふざけから誕生することは非常に多い。エンジニア同士がふざけて作ったプロジェクトが本番になってしまったということは自分にもあったし、今世の中でヒットしているテクノロジーやサービスでも枚挙にいとまがない。そして、更に大切なのはそうした「おふざけ」を受け入れる周りの環境だと感じる。エンジニア同士の「おふざけ」を面白がってどんどんやらせてくれる上司や会社のカルチャー、そうしたものが新しいものを次々と生み出すシリコンバレーの大きな原動力の一つになっているのだ。

October 20, 2010

Y Combinator Startup School 2010



Y-Combinatorが主催する、起業家を対象としたカンファレンスStartup Schoolが今年も開催された。スケージュール表からもわかるように、スピーカーは、Y-CombinatorのPaul Graham、GrouponのAndrew Mason、LinkedInのReid Hoffman、エンジェル投資家のRon Conway、FacebookのMark Zuckerbergなどなど錚々たる顔ぶれである。

講義はすべてライブで生中継公開され、録画も各スピーカーごとのものをこちらのサイトで観ることができるようになっている。

どのスピーカーの話もそれぞれ興味深いが、主催であるY-CombinatorファンダーのPaul Grahamの話をちょっとご紹介しておく。

Paul Grahamはスピーチの最初に、「ノートは取らなくてもいいよ、後から自分のメモをウェブで公開するから。君たちが自分で取るメモが僕のものよりいい訳がないからね。」と冗談を言って会場を笑わせていたが、約束どおり後日こちらの彼のブログサイトで要約が公開された。実際の講演のコンテンツをほぼ全てまとめてあるので録画を観るより効率がよい印象。

講義の要点は、ここのところスタートアップビジネスへの投資環境に激変がみられ、その原因はスーパーエンジェルとベンチャーキャピタリストとの間の競争が原因だという話。

「今まではエンジェルとベンチャーキャピタリストという2種類の投資家しか存在しなかった。エンジェルは自分の資産の中から少額を投資してくれる金持ちの個人で$20K~$50Kの投資をする場合が多い。一方、VCは$1 Millionだとかそれ以上の巨額のお金を投資し、そうした投資資金は人から集めたものである。

ところが、スーパーエンジェルという人たちが出現し始めた。エンジェルとVCの役割を掛けあわせたような存在だ。大抵は、従来のエンジェルのように個人がやっており、VCのように人から集めたお金を投資する。よって、スーパーエンジェルたちはエンジェルたちよりも巨額のお金を投資し、その額は大体$100K程である。スーパーエンジェルたちは、エンジェルのように投資の決断を素早くし、投資先への投資回数も頻繁に行う。

VCのように他人のお金を投資し、エンジェルの強みである投資スピードの速さを実現したスーパーエンジェルの出現は、VCにとって驚異になっている。VCとスーパーエンジェルがお互いに競争し合い、スーパーエンジェルはより巨額のお金を投資するようになり、VCが少額のお金をより素早く投資していくことで、何年か後にはお互いの役割がより似通ったものになってくるだろう。

投資家同士の競争は、起業家にとって朗報である。競争は顧客にとって有利な条件をもたらすが、そうした単純な理由だけではなく、VCとスーパーエンジェルの対立が引き起こすルールの変化が起業家にとって有利なものになるだろう。

いずれにせよ、少なくともこれから数年はスタートアップへの投資ビジネスはヒートアップし、大規模なマーケットクラッシュでもないかぎりはスタートアップが資金調達するのに絶好の環境になる。従って、これからスタートアプが乱立してバブルのようになるだろう。」

かいつまんで話すとざっとこんな感じだが、実際の数字を出しながらの説明も含めてかなり面白いのでご興味のある方は是非録画を観るなり要約を読むなりしてみてください。投資環境の変化が発端でもたらされるスタートアップバブル、インターネットバブルの次はこれか?


リンク集:
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Startup Schoolの全講義録画
Paul Grahamの講義録画
Paul Grahamの講義要約
Startup Schoolの撮影写真


October 7, 2010

DropboxとiPadの相性


今更のようだけれど、Dropboxがとても便利。

プログラマの人など、ソースコントロールのシステムを使い慣れている人にはお馴染みのコンセプトを簡略化し、誰にでも解りやすいUIと共に提供しているところが凄いオンラインストーレッジのサービスだ。類似のサービスは他にもいろいろあるが、私はこれが一番気に入っている。Y Combinator出身のベンチャーでSequoia Capitalも出資している。

Dropboxは、ストーレッジというよりも、サイズの大きいファイルを誰かに送りたいときのトランスファーフォルダとして活用することが多かったが、iPadを買ってからはそのためのファイル置き場としての利用頻度があがっている。私の所有しているiPadのモデルは16GBなので、「自炊」したPDFファイルなどをせっせとリーダーアプリの本棚に取り込んでいるとあっという間に容量オーバーになってしまう。そこで、入りきらない予備軍のファイルをDropboxに置いておくのだ。DropboxはWindows、Macintosh、Linuxだけでなくモバイル用OSもサポートが充実しており、もちろんiPad用アプリケーションもある。iPad用のDropboxでファイルを開くと、BookmanCloudReadersなどのリーダーアプリに取り込むためのメニューコマンドが表示されるので、そこから各リーダーアプリの本棚にファイルを取り込む。i文庫HDの最新バージョンでは、Dropboxアプリを立ち上げなくても、Dropboxサーバから直接文書を取り込む機能も付け足されているのでより便利 - この機能は他のリーダーアプリでも早く実装されて欲しいものだ。

iPadを買って、そこにネイティブに開放されたファイルシステムがないことに戸惑う人は多いよう。だから、ファイルをiPadのアプリに取り込む方法をあれこれ考えることになる。iTunesに接続してファイルを取り込むのが苦痛かつエレガントでないのは周知の事実。iPad自体のハードディスクの容量も考えると、どこからでも手軽にアクセス出来る場所にコンテンツを置いておきたい。こんな状況で、DropboxのようなサービスはiPadととても相性がよいと思う。Dropboxに置いておけばiPhoneやAndroidからでもアクセスできるし、状況によって違う端末から同じコンテンツにアクセス出来るこうした使い勝手のよいサービスはこれからますます手放せなくなりそうだ。



** 現在Dropboxのサイトは英語だけのようなので、Dropboxって何という人はこちらだとかこちらの日本語で解説してあるサイトが参考になります。



September 30, 2010

Google Waveが好きなワケ


もう数カ月前のことになってしまったけど、8月にGoogle Waveの開発が打ち切りになったとアナウンスがあった。このサービスは大変気に入っていたので残念でならなかった。開発中止のアナウンスから約1ヶ月後、Google Waveはオープンソース化され「Wave In a Box」として生まれ変わるとのアナウンスがあったので、取り敢えず自分でサーバを立てれば似たようなものが使えるようにはなりそうだが、「Wave In a Box」が具体的にどんな感じに開発されているかの詳細はまだよく知らない。今回は、私が大好きだったGoogle Waveのサービスについて書いておくことにする。

結論からいうと、Waveが素晴らしいと私が思う最大の理由は、同期型のコミュニケーションと非同期型のコミュニケーションを任意で選択することができるからである。

私はチャットなるものが苦手である。苦手な訳は、チャットでは非同期のコミュニケーションが許されにくく、のらりくらりと同期型の対話を強いるカルチャーがあるため。気心の知れた友人などとのチャットは楽しいものの、そうでない人に対しては相手の都合を考慮しての対話が成立しにくいような気がするのだ。いきなりチャットのウィンドウが開いて話しかけられても、丁度ひまだったということは稀で、忙しく何かに取り組んでいたり出掛けるところだったりする人は多いと思う。そして、会話が一旦始まると、メッセージを書き込んでいる間の待ち時間だとか、他のことを待ち時間にしようにもどうも落ち着かない感じがする。電話でさっさと要件だけ済ませた方が効率がよさそうな場合がほとんどである。

Waveはこうしたチャットの欠点を見事に克服したサービスである。リアルタイムでチャットのように使うこともできるし、相手への返信を自分の都合の良いときに時間を置いてから書き込むこともできるという非同期的な「掲示板」のような使い方もできる。私個人的には、イベントを企画するときなどにWaveが大活躍している。例えば、ポットラックパーティーを開くとしよう。参加者を招いたWaveをつくり要点を書き込む。誰が何を持ってくるのかを書き込むのに便利な表ウィジットを利用することができるし、出欠を取るのにもクリック一つでYes/No/Maybeを参加表明できるウィジットがある。その他、会場のグーグルマップや写真を貼りつけたりすることもできる。こうしたイベントのWaveをつくっておけば、参加者は自分の都合のよい時間に返信を書き込むことができ、たまたま参加者同士が同じ時間に書き込みをしていれば、チャットのように同期型のコミュニケーションをすることもできるのである。 このようなことすべてを従来のチャットのシステム上で行うのは無理があるし、Eメールだと大量のメールが飛び交い効率が悪い。また、メールでは複数のトピックを同時に取り扱うのは難しいが、Waveならば食べ物の話をするグループと集合場所を決めるグループが同じWaveの上で同時進行で話をまとめるということも可能。この融通のきくコミュニケーションスタイルが最高の使い心地なのだ。

電話のような同期型のコミュニケーションは、必要に迫られた場面では最も手っ取り早く効率が良い。しかし、自分にその意志がないときに同期型コミュニケーションを強いられると人は最も居心地が悪くなるものだ。Twitterが大流行している大きな理由の一つは、ユーザが同期型コミュニケーションと非同期型コミュニケーションを選択することができるからだと思う。Twitterでは、チャットのようにリアルタイムに近い形で対話することもできるが、話のネタが風化しないうちだったら時間をおいて返信することもできる。その気軽さがよい。だから、Twitterのように同期型と非同期型のコミュニケーションを選択できることができるWaveは、正しく理解されすればもっと多くの人たちにウケるサービスだと思うのだ。

Waveが一部の人の間にしか浸透しなかったのには理由がいくつかありそうだけれど、一番致命的だったと感じたのはnotificationのシステムが上手く組み込まれていなかったからではないかと思う。Waveに書き込みがあるとメールで通知される機能が途中から付け足されたが、サービスがリリースされて話題になった時点ではそうしたネイティブに組み込まれた通知のシステムがなかったので、折角書き込みをしても誰も見に来ないということが頻発した。これがボトルネックとなり、ユーザの多くはWaveの良さがわかるまえに使うのを止めてしまっていた。Waveのアップデートをブラウザのアイコンの色で知らせるChrome用のextension、Firefoxのプラグインなどを使うようになった仲間内ではそうした問題はなくなったが、サードパーティの通知用ツールを利用することもなく使わなくなってしまうユーザは非常に多かった。あと、途中から付け足されたメールで通知が送られるシステムは、残念ながら、自動的に適当な間隔で送られるものだったので、ほとんどの人はそのメール通知の多さにうんざりして通知をoffにしてしまっているようであった。自動で送付されるのではなく、「イベントに参加出来る人はお返事早くください」のような感じで任意にメールで注意を喚起することができれば都合がよかった。

今年は、私のお気に入りだったGoogleのプロダクトが2つ打ち切りになってしまった。Nexus Oneの一般向けWeb直販が中止になり、そしてこのWaveの開発の打ち切り。Nexus Oneでは、OSのアップデートをいち早くOTAで受け取ることができ、キャリアの制約なしで色々やりたい放題。Waveは上で書いたような理由で素晴らしいサービス。どちらも巷での普及率はイマイチだったようだが、ちゃんと理解されてないんじゃないか、と愚痴ってみる。もちろん、ちゃんと理解したうえで他の電話を選択したり、Waveは嫌いという人もいるのだろうけれど、そこらの通行人をつっついて質問しただけでも、全くよさが理解されていない、知られていない故に使われていないのがマジョリティなのが残念なことこのうえない。だから、ちょっと遅すぎたかもしれないけれど、ここにこういう記事を書いておこうと思った次第。

September 25, 2010

iPad-自炊:電子レンジで本を分解する試み

先日のブログエントリーで書いた自炊の初体験以来、pdf化した本をiPadに取り込みBookmanで読書するスタイルが快適である。

所有している書籍を積極的にどんどんpdf化したいところだが、悩むは本の裁断。力のある人なら問題ないかもしれないが、電子カッターでの裁断は軟弱者の私にはかなり疲れるしケガをしそう、裁断機も力が要りそうだし性能の良さそうなものは$500ぐらいと高価だ。FedExに本を持ち込んだところ、一冊$1.49で裁断してくれたが微妙な値段である。さてどうしようと思いながら本をぼーっと眺めていたところ、各ページの根元が糊で綴じてあることに気付いた。この糊さえ溶ければバラバラになるな、電子レンジで加熱したらどだろうと思い立ち、手元にある本を電子レンジに突っ込んで実験してみた。すると、糊がドロドロに溶けて背表紙が剥がれ、スルスルと頁を引き抜くことができるではないか。この結果に興奮したので、ついついTwitterで

”自炊するのに裁断機や電子カッターを使わずに本を分解する方法を編み出した。「本を電子レンジで30秒ほど加熱するだけ。」糊がドロドロに溶けて自動的に頁がバラバラになる。裁断機を使うと本の中心近くにある画像が切れる問題も解消。”

、と冗談めかしてつぶやいたところ、次々とリツイートされ始め、通信関係の権威でいらっしゃる小池良次さんにリツイートしていただいた辺りから勢いが加速。Twitterの情報の伝播力は凄い、一時間もたたないうちに100リツイートを超える騒ぎとなった。糊はドロドロしないかだとか、スキャンするのに問題はないのかなど多数のご質問をいただいたので、ちゃんと検証したいなと思っていたところ、タイミングよくScanSnapをお借りすることができたので、興味のありそうな人をお招きし「電子レンジメソッドで自炊をする会」を開催する運びとなった。

実験結果の豆知識:
  • 電子レンジで加熱処理をするデモ録画はこちら
  • 日本の文庫本2冊を含む数冊を使って実験してみたが、200~300頁ぐらいの書籍なら1000Wの電子レンジで1分30秒ほど加熱すると丁度良い具合に糊が溶けて背表紙が剥がれる。
  • 加熱しすぎると変色してしまうので加減が必要。
  • 糸で留めてあるものは糊が溶けてから別途カッターで糸を切る必要がある。
  • ホッチキスなど金属が使われているものは炎上する可能性があるので危険。
  • 加熱後にフニャフニャになることもあるが、その場合はまだ紙に温もりがあるうちに重しをのせておけば大体まっすぐになる。
  • 背表紙が剥がれた本体の頁は大まかにバラバラになるので、それを一枚ずつ手でバラバラにする。
  • スキャナーに糊がついて汚れたりする場合もあるのでスキャナーを掃除する必要がある。
  • 数冊試しただけで、サンプリングは十分ではないので、まだ未知の様々な問題が起こる可能性がある。
糊を剥がしたあとの凹凸がひっかかって上手くスキャンできないのではなどとの懸念もあったが、ScanSnapはさすがに精鋭なスキャナであるらしく、今回の実験に使用した本の頁はエラーが一度も起こらずにスキャンを終了することができた。もちろん、スキャナの種類によっては上手くいかないものもあるであろうし、糊が剥がれた状態が悪かったりすると結果に影響が出ることであろう。







320頁の本





電子レンジで加熱直後







きれいに分解できました








ScanSnapでスキャン中










Bookmanに取り込んだところ







Twitterで

"電子レンジ書籍分解法、まだ誰も試した人いなかったのかなぁ?パテントかけられない? 笑)"


”Twitterで公表したので、もう公知の事実ですね。残念。"

、などという冗談を小池さんと交わしたりしたが、やっぱりこれは私が始めて思い立ったというもののはずはなく、こういうウェブサイトがちゃんとあるよと教えてくださった方もいる。まさかこれほど多数の方にリツイートしていただけるとは想像しなかったので、自分が「編み出した」などとよく調べもせずに軽々しくTwitterに書いてしまい、ずっと前にウェブサイトなどで電子レンジの方法を記述されていた方には失礼だったと思うので申し訳ありませんでした。

兎も角、ふとしたことがきっかけとなりとても楽しい金曜日の夜となった。

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以下は、使用した及び推薦された道具のまとめ。

Windows用
FUJITSU ScanSnap S1500 FI-S1500
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Mac用
FUJITSU ScanSnap S1500M FI-S1500M (Macモデル)
富士通 (2009-02-07)
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プラス 断裁機 裁断幅A4 PK-513L 26-106
プラス (2009-09-01)
売り上げランキング: 320


BOSCH バッテリーマルチカッター XEO
BOSCH(ボッシュ)
売り上げランキング: 3004


後日談:最近ではこんな本も出版されているようです。

電子ブック自炊完全マニュアル
戸田 覚
東洋経済新報社
売り上げランキング: 5313







September 20, 2010

カーナビのことなどAndroidについて雑感


ついに日本でもAndroid上でグーグルマップをベースにした無料カーナビが使えるようになったと発表された。

今年1月にNexus Oneを購入して以来、私もこのサービスを利用しているが、もの凄くいい。携帯電話の小さな画面ではナビが見にくいのではとの心配は杞憂に終わり、まったく不自由なしの快適さ。特にいいなと思ったポイントは以下のところ:
  • 携帯のGmail、ウェブ、アドレス帳の住所をクリックするだけで、入力の手間なくナビモードに入れる。
  • いつも携帯しているという状況柄、事前に目的地をセットアップすることが容易で車に乗り込んでから入力するというあわただしさがない。
  • 他のカーナビソフトのように、アップデートにお金を払う必要がなく、常に最新のコンテンツがダイナミックに提供される。
  • 車にカーナビを置きっぱなしにして盗難という心配がなくなる。
  • 検索機能との連携プレイはさすが、これの右にでるもの無し。
  • カードックはNexus One純正のカードックを持っているが、それに組み込まれているスピーカーなしでもはっきり聞き取れるぐらい音も十分大きく調節できる。
  • ストリートビューの実施されていいる場所が目的地の場合、標準の地図モードで運転していても到着時にストリートビューが表示されるところがちょっとカッコいい。
などなど、大変気に入っているので、ナビが必要なところへ外出の際には必ずお連れしている。車をよく運転する人は、これが使えるからiPhoneではなくAndroidにするという人も増えてくるんじゃないかと思う。気の毒なのは既存のカーナビメーカーですね。


iPhoneは初モデルが発売になってからずっと愛用しているが、Nexus Oneを買ってからは両方を必要に応じて使い分けている。どちらが好きかと聞かれれば、「両方」。Androidはクラウドを上手く利用しているのでOSアップデートもエレガントにOTA、アドレス帳やフォトアルバムもいちいちiTunesのようなものに繋がなくても自動的にアップデートされるのがクール。Google VoiceやGTalk、ナビなどグーグルのサービスとの連携が自然なところがよい。Froyoにアップグレードしてからは一段と高速になり、WiFiホットスポットの機能は大変重宝している。

そしてAndroidは、まだiPhoneほど使い勝手や機能の実装が洗練されていないけれど、エンジニアが楽しみながら規制なしにガーッと作った気配が存分に残っているところが素敵だと思う、マルチタスクが制御なく野放しになっているところだとか。プロダクトが成熟してくると、エンジニアリングで好き勝手はできなくなるのが普通なので、完成度の高さと引換にそうした未熟さ故の魅力は失われるものだ。このAndroidの楽しい雰囲気に魅了され、禁を犯しEclipseにAndroid SDKをセットアップして"Hello World"プログラムまで書いてはみたものの、個人的な諸々の事情でここから先に進むべきか否か迷い中。

キャリアからの規制なく最新のOSがゲットできたりやりたい放題だったNexus Oneが販売中止になってしまったのは本当に残念だ。リーナス・トーバルズもNexus One気に入ったと言っていたし。まぁ、キャリアの制限なくなんでも出来るというところは、各キャリアの端末にAndroidを搭載してもらっていることを考えると政治的にも複雑そう。

Nexus Oneを手に入れた時はすっかりこれに夢中になり、iPhoneが放置気味になっていた時期があった。しかし、iPhone 4が発売されてからは、iPhone 4のあまりの美しさに陥落し、その使用頻度が上がっている。こんなことを書いていると、電話2つも持って変な人だと言われそうだが、ここはシリコンバレー。5人の友達と集まれば、そのうち3人がiPhoneとNexus Oneの二台持ち、iPhoneは全員、iPadは4人が所有という内訳。新しいガジェットが発売されると真っ先にゲットして披露してくれる人が必ずいる楽しい環境なのだ。新しいガジェットを誰よりも先に買って披露というと、なんとなくスネオのキャラを連想するが、みんな性格のよい素敵な方ばかりなので、「きれいなジャイアン」ならぬ「きれいなスネちゃま」大集合といったところだろうか。

September 16, 2010

Bookmanと自炊にまつわる話


Twitterのタイムラインから「自炊」という表現が流れてきて、何のことだろうと首を傾げたのはいつのことであったか、今ではすっかり定着したジャーゴンである。もちろんここでいう「自炊」とは紙の本を裁断、スキャンしてPDF化、電子リーダーで読めるようにするプロセスのこと。

アメリカにはBOOKSCANやスキャポンのような格安のスキャンサービスはないし、ScanSnapを使用して自炊する様子を解説した日本のサイトを見るにつけ、自宅本棚の本を全てPDF化できたら随分身軽になれるなぁと思っていたところ、iPadブックリーダーBookman開発者の加東さんJTPAにお招きして講演していただく機会に恵まれた。講義ではBookmanを始めとしたiPad用のブックリーダーアプリ開発や電子書籍にまつわる話、自炊の実演などを含めていろいろと勉強することができた。

iPadが発売されてから、それ専用の書籍アプリ、リーダーが各社から発売され、何種類か自分のiPadにインストールしてみたものの、写真など図面の多いコンテンツは取り扱いがどうも上手くできておらず、もっさりと重い動作で読み込みの遅さにイライラさせられるものが多かった。iPadはその解像度の高さからも写真の多い雑誌のようなコンテンツが最高に映えるのだが、残念ながらそうした雑誌などで購入したものはどれもパフォーマンスが快適でないものばかり、紙のパラパラ感には及ばずであった。

加東さんのお話によると、Bookmanは「速さ」が売り、「速さ」にフォーカスした機能では誰にも負けないアプリを目指していらっしゃるとのこと。なるほど、このアプリ確かに超速です。写真が大半で構成されているPDFを読み込んでみたところ、サクサクページがめくれます。サムネイルも瞬時にして生成された。画像データの多いファイルをめくるときは、画像が読み込まれるまで時間がかかるリーダーが多く、連続でページをめくると画面が真っ黒になってしばらくコンテンツが表示されなかったり、停止してしまうアプリが多いなかBookmanはそうした問題が全然起こらない!iTunesのランキング上位にあがっている他のリーダーアプリも色々と試して比較してみたが、画像処理にかけては群を抜いたパフォーマンス。テキストだけのコンテンツはKindleやこれからも多数でてくるであろう廉価なブックリーダー端末で十分なので、iPadではそうした端末と差別化できる画像を中心としたコンテンツを優雅に演出できるBookmanのようなリーダーに期待がかかってくると思う。

加東さんのご解説によると、高速の秘訣はキャッシュのマネージメントに工夫があるようで、ユーザがページをめくるのに先立って次々とデータを先読みしてバックグラウンドでキャッシュの生成処理をしているそう。まぁ、説明するのは簡単ですが、これを上手く実装するのはそれなりに高度なスキルが必要なので、さすが凄腕ゲームディベロッパの加東さんですね。

興味があったので、これが良い機会と「自炊」のプロセスを加東さんに解説していいただきながらScanSnapもお借りして試してみた。電子カッターや裁断機で裁断するのは、ナマケモノの私にはちょっとハードルが高い。でも、ScanSnapは巷での評判どおり大変秀逸なスキャナーで、ページが重なってスキャンされてしまうなどのエラーも滅多に起こらないそう、OCRなし300dpiの設定で150ページ程がものの5分程でPDF化された。近所のFedExに問い合わせたところ、自分でやると面倒な本の裁断は一冊$1~$1.49でやってくれるとのことなので、機会があったらまとめて裁断してもらってScanSnapでスキャンするのもいいかなと思った。ScanSnapはUSのアマゾンでも買えるようなので、ちょっとwishリストに追加。


初めて体験した自炊に使用した本は写真の東京のガイドブック。Bookmanに早速取り込んで快適な読み心地。日本に帰省の際には、各地を旅行したり、東京の街を散策したりするのにガイドブックを買うことが多いのだが、飛行機に乗って日米を往復するのにこうしたガイドブックを何冊も鞄に詰め込むのは重量制限もあるし、かなり負担になっていた。日本を出てこちらに戻るときに毎回捨てて買い直すというのも不経済。こうしたものこそiPadなどの電子リーダーに何冊も取り込んでおきたい。iPadなら旅先でグーグルマップを表示することもできるし便利そう。そう考えると、ガイドブックからクリックしてそのままグーグルマップに飛んだり、音声ガイドがついたような電子旅行ガイド本、早く普及して欲しいものだ。


FUJITSU ScanSnap S1500 FI-S1500
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追記:自炊のプロセスは加東さんのこちらのサイトが解りやすいです。


September 13, 2010

Barefoot Coffee


午後のひとときをBarefoot Coffeeで過ごした。アップル本社キャンパスからも車で5〜8分のところにあり、ベイエリアで一番美味しい珈琲が飲めるという人も多いほど地元で評価の高いのカフェのひとつ。一番の人気はカプチーノで、その濃厚でクリーミーな飲み心地は絶品、これを飲んだらリピーターになること必至の店である。

この日は、読書中の本が全て電子書籍だったので小脇にiPadを抱えて外出した。あれもこれもと欲張りに同時並行で何冊かの本を読書することが多い私にとって、iPad一台に何冊もの本を詰め込んで出掛けることができるようになったのは嬉しい限り。それにしても、iPadはカフェにしっくりくる。カプチーノを飲みながら、iPadで読書したり、ニュースサイトを読んだりの時間はノートブックを持ち込んだ時よりも優雅で極上のものになるのだ。iPadでXcodeが使えたらいいのに、という輩は実に多い。確かに、うまい具合にツールアプリが実装されたらiPadでのカフェプログラミングはいかにもはかどりそうだ。利便性、実用性だけでなく、優雅かつ味のある感覚を愉しめる端末というのはアップル製品独特のものだと思う。Windows OSを搭載した使い勝手がよく、なんとなくスタイリッシュな仕様になっている他のメーカーのノートパソコンで最高に実用的で秀逸なものは数多くある。しかし、アップル製品の醸し出しているものはそうした現実的な道具としての完成度云々という以前に、徹底した職人気質とものづくりへの究極のこだわりからくるもの。だからこそ、ここまでもカフェとカプチーノがしっくりくるのだ。

そんなことを考えていたので先日のiPadにまつわるエントリーの付け足しとして、ちょっと書いてみた。

さて、このBarefoot Coffeeでは只今、日本人写真家のIchiro Asaoさんの写真展開催中である。Ichiroさんはシリコンバレーにある公園で野生動物、草木などを被写体に癒しを目的とした写真を趣味でずっと撮り続けていらっしゃる方。この辺りにあるトレイルにウォーキングに行くと目にする美しい瞬間をとらえた写真は心を和ませる。写真の展示は今月一杯だそう。




September 9, 2010

iPad購入からその後

iPadが今年4月3日に発売されからしばらくになるが、折角ブログを再開したのでiPadにまつわる雑感を書いておこうと思う。

最初にiPadの発表がアップルからあったとき、Power Mac G4 Cubeのことを思い出した。そう、2000年にアップルが発売したあの立方体のモデルである。うるさい冷却ファンを取っ払い、Power Mac G4をわずか20センチ四方の箱に収めるという型破りの発想、透明なプラスチックの衣をまとった美しい姿は皆をあっといわせた。発売後、いち早くCubeモデルを取り寄せた同僚の机の周りは黒山の人だかり。お揃いのモニター、ハーマン・カードンのスピーカーなどと組み合わせて机に陳列した様はまるで美術品の展示のようで、従来の仕事場のワークスペースとはまったく違うスタイリッシュな空間を作り出していた。ところがこのモデル、見た目は素敵だが拡張性がない上に値段やスペックが中途半端。パワーユーザーにとってはPower Mac G4タワーに比べてスペックが物足りなく、一般ユーザーにとっては値段が高すぎるので廉価なiMacを買うほうが合理的、というマーケティング上の欠点があり、結局すぐに発売停止となってしまった。

iPadが発表されたとき、そんなCubeの思い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡り「帯に短し襷に長し」の感があった。値段はWifiのみのモデルが$499からとリーズナブルなものの、ポータブルな端末としてiPhoneとノートパソコンの使い回しのどこを補完するのだろうかと。これが最初の2秒のなんとなくであった。

しかし不思議なもので、発表から予約受付までの一ヵ月半程の間、アップルのデモビデオを何度も観たり、いろいろな人の話を聞いたりしているうちに、やっぱり欲しいという気分になり、予約→発売日に購入、というお決まりの流れになった。Twitter過去ログでの推移は以下のとおり。

[発表直後]

カメラがあればちょっとした編集にも十分な大きさなのに。外付けキットが出たとしてもエレガントではない。

Wed Jan 27 2010 11:50:08 (PST)

iPadについていろいろ復習中.....

Thu Jan 28 2010 22:40:23 (PST)

所有している15”MBPは、気軽に持ち歩くには私にはちょっと重すぎ大きすぎ。スマートフォンの小さい画面でするよりもう少し本格的に読んだり書いたりのちょっとした作業を出先でするにはiPadいいかなぁ、という気持ちになっている今日。

Sun Jan 31 2010 21:00:52 (PST)

[予約の儀]

iPad予約手続き完了

Fri Mar 12 2010 08:14:25 (PST)

[購入直後]

iPadのような玩具を手に入れた後の雨降りの日ってなんて素敵。

Sun Apr 04 2010 18:49:17 (PDT)

ノートパソコンを持って出かけるのは気合が必要だけど、iPadならストレスなく持ち運べて快適。ちょっとご飯食べに行きますというときも迷わずお供に。でも、使うかわからないのに常に鞄に入れておくにはやっぱりちょっと重いかな。iPad Airぐらいの感覚に早くなってほしい。

Tue Apr 06 2010 21:31:02 (PDT)

ざっとこんな感じである。発売日に手にしたiPadは想像を遥かに上回る素晴らしさであった。グーグルマップのレンダリングからひしひしと実感できるA4チップの高速感、モダンな石板のような洗練されたデザイン、既存のiPhoneアプリでiPad用に書き換えられたものはより大きな画面の中でダイナミックで新しい感覚を演出しており、すべてが完璧であった。「こんなにワクワクするガジェットは久しぶり!これは世界を変えるね。」と本気で感じた。購入日のお祭り騒ぎの後、しばらくの間は暇があればiPadを触っていた。

さて、購入日から約5ヶ月経過の今日、我が家にやってきたこの新しい端末の近況を最後に:

  • 料理のレシピを表示しながらキッチンで使うのはお気に入り。
  • セカンドモニターのようにして使うと快適。例えば、誰かのプレゼンのデモビデオをiPadで流しながら、そのメモをノートパソコンで取る。
  • 映画など動画の再生は、途中で移動しなくてはならないときに簡単に持ち運べるので大変重宝している。例えば、映画鑑賞中にキッチンにお茶を取りに行ったり、部屋を移ったり。
  • 写真を見るのに最高の端末。写真集、写真の多い雑誌などがもっとiPadで読めるようになって欲しい。
  • カフェでゆっくりコーヒーでも飲もうというときに持って行くと優雅なひとときが過ごせる。iPhoneの小さい画面で見るよりも、iPadの画面での表示はやはり豪華だ。

正直に言うと、始めの2秒で感じたごとく、自分の今のライフスタイルには、iPhoneとノートパソコンの使い回しのフローに日常の必需品としてフィットする場面はなかった。自宅にいるときに使うのは圧倒的にノートパソコンで、外出時にiPhoneは必ず携帯するものの、使うかわからないのに取り敢えず鞄に入れておくほどiPad軽くはない。しかし、iPadがあると日常の場面がより華やかに、愉快になる。要するに、私にとってのiPadiPhoneやノートパソコンのように毎日必ずなくては困るというものではなく、キッチンにある電動ミキサーのような位置づけである。電動ミキサーがなくても手で混ぜることはできるが、ないとちょっと不便だし、料理の仕上がりもちがう。

日常のあらゆる場面でiPadを活用し、コレがない生活は考えられないという人も周りに多数いるし、全然使わないで机の上に置きっぱなしという人もいる。人によって活用頻度はまちまちのようだ。しかし、紛れもない事実がある。それはiPadが発売されたことで紙の書籍から電子書籍への移行が加速されたことだ。米国ではアマゾンのKindleが牽引する電子書籍のマーケットがじわじわと広がりつつあったものの、iPadが発売されるまでは日本での電子書籍の実現はかなり難航しているようだった。それが、iPadのお祭り騒ぎがきっかけとなり、続々と電子版書籍がマーケットに出始めた。出版に関してiPadの影響は多大なものである。そして、なかなか離陸しなかったタブレットというプラットフォームのマーケットの展開が一気に加速した。

iPadにはまだまだ可能性が秘められていると思う。新しいプラットフォームとして世の中に姿を表し、そこに完全にフィットするコンテンツが発明されるのを待ち構えているような未来性のあるプラットフォームだと思うのだ。

September 7, 2010

「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン〜人々を惹きつける18の法則」


「本書ではジョブズのプレゼンテーションを分析し、聴衆を魅了するテクニックの数々を初めて明らかにする。それだけではない。本書を活用してジョブズのスキルを修得し、そのテクニックを活用すれば、彼と同じように聞き手の心を動かし、また聞きたいと思われる話ができるようになる。」
、という魅惑的な一節がプロローグにあるが、これは大変な良書。

プレゼンのマニュアル本は多数あるが、ジョブズという大変注目されている話題の人物が題材になっている本書は最後まで楽しんで読みきることができた。プレゼンのノウハウだけでなく、ジョブズの生き方や考え方も折り混ぜて、陳腐なマニュアル本ではなく情熱的なストーリーのある展開になっている。ジョブズのプレゼンのごとく、ポイントをおさえて明快な記述が読みやすい。9月1日に開催されたアップルのミュージックイベントでジョブズのスピーチが生中継されるのを聴いていたが、本に書いてあるテクニックが実際に使われる度に頷いてしまうなど、コンテンツ以外のところでも倍楽しめた。過去のスピーチの録画もYouTubeにあがっているものを時間があるときに改めて観てみようと思う。記述されている技法はプレゼンに限らず、文章を書くとき、人を説得したいときなど日常のあらゆる場面で手軽に活躍できる秘訣が満載なので、公の場でプレゼンをする機会はないという人にもおすすめめできる。

本書はカーマイン・ガロ氏の日本語翻訳だが、日本語版は外村仁氏の解説が巻末に付録として付いているのが特典。シリコンバレー在住で、アップルにも在籍されていた外村氏から日本の皆さんへの愛情のこもったメッセージは日米の文化の違いもふまえて書かれており、本体を読む前に一読するとよいと思う。英語版はKindle経由でも安く早く購入することができる世の中になったが、こうした価値のある解説が付いているものはあえて翻訳版を選びたい。

私がソフトエンジニアになったばかりの始め3年ほどの間、ローカリゼーションやインターナショナリゼーションの仕事をしていた時期があった。要するに、シリコンバレー本社でUSマーケット用に書かれたソフトのコードを書き換え、UIの翻訳や文字サポートも含め、日本や他のアジアの国、ヨーロッパなどの市場用に作り直す仕事だ。日本のマーケットは消費者の要求のスタンダードが高いので、他のマーケット用には直さないようなバグも日本語版だけ特別に直したり、機能も日本語版だけ付け加えたりということがよくあった。結果、日本語版の方がオリジナルのUS版より仕上がりが良くなることも多々あり、そこが国際化の仕事の面白いところであった。書籍の翻訳もしかり、優秀な監訳者、解説者のために翻訳版にプレミアムが付いてオリジナルよりもバリューが高くなる良い例が本書である。


スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則
カーマイン・ガロ
日経BP社
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注)アメリカ在住の人のためにUS紀伊国屋のリンクはこちらです。リアルタイム在庫が確認できます。紀伊国屋は店舗も各地にありますし、送ってもらうだけでなく実店舗取り置きもできます。

iPhoneのケースが届いたのでちょっと一言

世間を騒がせたiPhoneのアンテナ問題のため無料配布されることになったケースが届いた。

Apple純正のバンパーや他のケースを注文した人たちは申し込みから一週間程で届いていたようだけど、私の選んだ↑の写真のモデルは、Case Programアプリがリリースされた7月23日に即申し込みをしたのにもかかわらず昨日やっと届いたので結構時間がかかった、がそんなことはどうでもよい。使うつもりはない。

この上なく美しくデザインされたiPhoneをゴムのケースやバンパーで覆ってしまうのは邪道だと思う。アップルの製品にプレミアム価格を払うのはその洗練されたデザインのため。使いやすい機能上のデザインだけでなく、その見た目の美しいデザインのためにアップルファンは惜しげなく金を払うのだ。手に持ったときに感じる素材の感覚、重みなどが全て細かく計算されつくされ、最適化されている、それをケースで包み隠してしまうのは実にもったいない。

iPhoneは初期バージョンから全てのモデルを購入してきたが、むき出しで使うのが常に自分のスタイルだった。今回のiPhone 4にいたっては、Retina Displayと名付けられた画面の美しさとといいまるで宝石のよう。手にとった感覚はスワロフスキーのクリスタルジュエリーのごとく、「Jewelry Phone」と麗しく呼びならわしたくなる仕上がりである。

で、例のアンテナ問題だけど、私や周りのギークコミュニティの人で気になると言っている人は殆どいない。これは多分、この界隈のギークコミュニテイではiPhoneを電話として認識している人はあまりいないし、電話機能をあまり使っていない人が多いからだと思う。iPhoneが初めて発売になった時からギークな人達はみな思っていただろうけど、'phone'というストリングが製品名に入っていること自体不自然なぐらいだった。これは超小型携帯用コンピューターで電話はオマケ、瑣末な機能。それを携帯電話という広く浸透したマーケットにうまくのっけて売り出したアップルの戦略はすごい。超小型携帯用コンピューターとして売りだしても、殆どの人は買わなかっただろうからね。

もとい、そんなこんなで電話としてあまり使わないからアンテナのことも気にならないし、デザインが美しいから脱ぎ着せが簡単ではないカバーは使いませんよという話でした。

September 3, 2010

Posterous

Posterousにちょっとテスト投稿。メールから写真も文章も投稿できる気楽さがいいですね。軽量ブログという点では、reblogが特徴のTumblrと似ている感じがしますが、こちらはコメントへの返信もメールベースで実行することができるなど、従来のブログ書きの体験をより簡単に、Eメールという誰にでもお馴染みのシステムを使って可能にすることにフォーカスしているよう。パスワード保護で友人や家族に閲覧を限定したブログにすることができるなどのプライバシーコントロールのコンセプトは、残念ながら閉鎖されることになったSix ApartのVoxに似ていますね。Twitterがヒットした理由のひとつもそのシンプルな使い勝手と気軽に始められるハードルの低さ、これからの展開が楽しみなサービスです。Posterousが立ち上がったのは2008年、Y Combinator発のスタートアップですね。

2003年頃、ブログブームの黎明期に少しだけ試してみたブログを再開しようと思いつつ延ばし延ばしになっていましたが、これならまた書いてみようという気になるでしょうか。論文発表のようなブログを書いている時間はないので、Twitterの140文字では収まらないカジュアルなコンテンツを気の向いたときにちょっとメールクライアントから投稿ということで......。

テスト投稿の写真は、今週ランチしたサンフランシスコのZuni Cafeで食べたミントパンナコッタです。