October 28, 2010

iPhoneとトロイの木馬


今日のTechCrunchの記事にも取り上げられていたが、どうやらAppleがiPhoneとキャリアを切り離そうとしている動きがあるという。記事にもあるように、これはGoogleがNexus Oneでやろうとして失敗した試みだ。Appleが同じことをやろうとして上手くいくだろうか?

Googleのやり方は紳士的であったと思う。Nexus Oneは、キャリアの縛りから消費者を開放しようと試みる、消費者の利益を優先するプロジェクトであり、Googleはその目的をストレートに表現して売りに出した。表現がストレートだったから、デバイスを99ドルで販売することはキャリアから拒絶されたし、プロジェクトは終了に追い込まれてしまった。素晴らしい電話だったのに。Androidが世の中にまだ浸透していなかった時期に、この作戦はまずかったと思う。

AppleのiPhone売り出しにまつわる戦略は天才的だ。そもそも、Appleが高性能な小型携帯用コンピュータを「電話」として売り出した作戦に我々は見事にひっかかった。携帯電話という広くあまねく行き渡ったマーケットに乗っかり、これは電話ですよとiPhoneは売り出されたのだ。小型携帯用コンピュータとして売りだされていたら、ほとんどの人は見向きもしなかったであろうに。iPhone 4に至っては、もはやこれを「電話」と呼ぶのはまったく相応しくないほど、いよいよ電話の機能は瑣末なものになってしまっている。それにもかかわらず、いまだ堂々と「phone」というストリングが製品名に入って売られている。iPhoneを電話として売り出すのは、音楽再生装置のついた自動車を「動きまわれるミュージックプレイヤー」ですよと売り出すようなものだったのだ。消費者は小型コンピュータを電話だと思い込み、それは素晴らしく便利だという評判とともにじわじわと世の中に受け入れられ、普及してしまったという茹でガエル状態である。

さらには、かつて「電話」と呼ばれていた(いや、今はまだ呼ばれている)ものさえもその高性能な小型コンピュータが供給する様々な便利な機能によって置き換えられようとしている。こうなってくると、データプランさえあれば通話プランがなくてもいずれ通話ができるようになるということはエンジニアや先見の明のある人たちは始めから知っていただろう。そして、その解っていた人たちはiPhoneにプッシュ通知機能が付いたとき、わざわざ電話会社にテキストメッセージのための料金を払わなくてもよくなったという事実に小躍りししたはず。実際のところ、私の周りの人間では、料金を払ってテキストメッセージを送ってくる人はほどんどいなくなった。

話がちょっとそれてしまったが、もとい、AppleがNexus Oneと同じような試みを今したらどうなるか?既にiPhoneはマーケットに広く浸透している大人気の製品。だから少なくとも、AppleはGoogleがNexus Oneを売りに出した時より強気に出られる立場にいる。Nexus Oneが不評だった一因は、Webストアでしか買えず、直販店がないからユーザは満足なサポートが受けられないということだった。しかし、Appleには直販店があり、ジーニアス・バーという最高に整備されたカスタマサポートがある。記事には答えはもうすぐ分かると書いてある。

iPhoneは実はトロイの木馬だったのではないか。だから、私は家に他人を招き入れるときは慎重になろうと思う。




October 23, 2010

シリコンバレーの見所は



日本からシリコンバレー訪問にやってくる方に、何処が見所ですかと質問されることは多いが、Paul Grahamのブログに彼の推薦する見所が紹介されていた。シリコンバレーは物見遊山目的で来るには相応しくないところだが、出張や勉強が目的で来ても見所は気になるものである。

1. スタンフォード大学 (Stanford University)

2. ユニバーシティ・アベニュー (University Avenue)

3. ラッキーオフィス (The Lucky Office)

4. オールド・パロアルト (Old Palo Alto)

5. サンドヒル・ロード (Sand Hill Road)

6. カストロ・ストリート (Castro Street)

7. グーグル (Google)

8. スカイライン・ドライブ (Skyline Drive)

9. ハイウェイ 280 (280)

解説は原文を参照していただきたいのだが、以下、ちょっと説明を付け加えておく。

ラッキーオフィスとは、2番目に推薦されているユニバーシティ・アベニューというパロアルト市の目抜き通りの165番地にあるオフィスビルのことである。Logitech、Google、PayPalなど、大成功した企業が起業した当初このビルにオフィスを構え、会社の事業がトントン拍子に上手く行き、社員の増加にともなって他のもっと大きなオフィスに引っ越すというパターンが定着しているので、縁起のよいビルとして知られている。日本の六本木にある、言わずと知れた例のビルと対照的である。

もともと、このラッキーオフィスはAmidiさんというイラン人の移民一家が1988年に購入したものだ。Amidiさん一家はユニバーシティー・アベニューで絨毯屋を営んでいたが、商才に長けており、ラッキーオフィスビルのオフィスをPayPalなどに貸出するときにも、そうした企業の成功の可能性を鋭く見込み、投資をして財を成した。周辺のオフィスビルも次々と購入してスタートアップに貸してビジネスを展開しているようだ。詳しくは、こちらこちらのサイトに写真や動画付きの記事があるのでご興味のある方はどうぞ。

Paul Grahamも指摘するように、ユニバーシティ・アベニューのような繁華街で食事をして人に会い、またすぐに仕事に戻れる環境は重要である。オフィスビルと繁華街がほぼ必ず密接して構成されている日本の街の事情からは想像しにくいかもしれないが、シリコンバレーの仕事環境ではむしろオフィスビルに独自のカフェテリアがなく、徒歩で行けるところにレストランもない場合が大半。

そうなると、車で昼食を食べに行くことになり、油断していると1時間半や2時間がすぐに経ってしまう。だから、Googleのように社内に無料の食べ物を用意しておくのはとても合理的なことなのだ。夕食も会社で無料で食べれたり、オフィスを出てすぐの場所で食べることができれば、食後仕事に戻る人が多くなる。こう考えると、ユニバーシティ・アベニューのオフィス賃貸料が高沸してしまった今、マウンテンビューの繁華街であるカストロ・ストリート周辺にスタートアップのオフィスが増えていることは理解できる。

4番目に紹介されているオールド・パロアルトというのは、シリコンバレーの中核であるパロアルト市髄一の高級住宅街。歴史的な建物に混じって、モダンなデザインの大豪邸が建ち並んでいるので建築好きな人は行ってみるとよいと思う。私は建築を見るのが好きなので、このエリアを散歩コースにするのがとても気に入っている。健康のために始めたウオーキングだが、トレイルに行くよりもオールド・パロアルトの方が何マイル歩いても飽きないぐらいだ。つたの絡まるレンガ造りの館の立つ庭園をさりげなく覗き込むと、ドレスデンの焼付人形のような女の子が噴水の影で遊んでいたりして、ちょっとした別世界が垣間見れる。

280は私も大好きなハイウェイ。湖があったり牛が草を食べている牧草地が見えて美しい景色が楽しめる。天気のよい日にここを車で走るのは最高の気分である。サンノゼからサンフランシスコに車で移動する場合、ほぼ平行して走っているハイウェイ280かハイウェイ101の選択があるが、自然豊かな280がやはりよい。101はPaul Grahamも指摘するように「ugly」であるがオラクルなどのハイテク企業も脇に見えたりするので、始めて来る人は行きは280、帰りは101というのもよいかもしれない。

シリコンバレーに来て何をする?

シリコンバレーに短期滞在で来て、さらに人に会ったり勉強したりするにはどうするのがよいかというのもよくある質問だが、JTPASVJENなど日本人団体のイベントは数に限りがあるし、日本人ばかりとネットワーキングするのも面白くない。だから、現地の人たちとも交流するためにはEventbriteMeetupで興味のあるイベントを探して参加するのをおすすめする。Eventbriteはテクノロジー、ビジネスの大規模なイベントやキャリアフォーラムが中心。Meetupはもう少し小じんまりととした、例えばiPhoneプログラミング勉強会のようなものが中心だ。GoogleやFacebookのキャンパスが会場になっていたり、こうした企業が主催するセミナーもある。無料で参加できるものも多数あるので積極的に利用したい。

何処に泊まるか?

最後に、泊まるところについて。ホテルが最も手軽だが、若い学生さんなどアメリカ人と英語の話せる環境で安価にスティできる方法はないのかと聞かれることがある。この間、そうした質問をしてきた学生さんにはcraigslistのsublets/temporaryなどのセクションで探してみたらと提案したところ、うまくホストファミリーが見つかったそうだが、前回のエントリーにもあったY Combinator出資のスタートアップAirbnbのサービスで探してみるのも面白そう。

AirbnbのサイトをPalo Altoで検索してみたら、自宅のロフトにベッドを用意したので一泊$30だとか、ソファベッドかエアーベッドで一泊$45だがゲストも一人$10出せば泊まれる、などの格安プランが見つかる。$200程の値段では、素敵な暖炉やキッチン付きのコテージが借りられる物件など、ホテルより居心地がよさそうだ。面白いものでは、"Mountain View Hacker House"というものもある。詳細には「一泊$50、寝袋と枕をもってくれば我が家の居間で寝泊りOK。Y Combinatorに出資をうけたファウンダー、元インターン、Facebookファンドの従業員が住んでいます。」とある。各エントリーには、実際に宿泊したことのあるユーザからのレビューもあるのが安心だが、もちろん、こうしたサイトを利用しての宿泊にはリスクも伴なうのでトラブルには十分ご注意してください。

今回はこんなところで。

October 21, 2010

起業家にとって大切な資質 by Paul Graham

Forbesに掲載された、Paul Grahamによる「What It Takes」という記事。Paul Grahamが起業家にとって大切だと思う資質を4項目挙げて説明しているのでコンテンツをご紹介する。投資家はビジネスプランを最重視する傾向があるが、Y CombinatorのファウンダーであるPaul Grahamは「アイディア」よりまず「人」が大切だという。


決意(Determination)
Y Comobinatorを始めた当初は「知性(intelligence)」が一番大切だと思っていた。しかし、ファンダーがバカではだめなことは当然だが、知性が一定レベルまで到達していれば「決意(determination)」していることが一番大切なのだ。沢山の障害を乗り越えていかねばならないのだから。

WePayのBill ClericoやRich Abermanがよい例。Bill Clericoが電話してきたら、言われた通りにした方がよい。彼は絶対に諦めないから。


柔軟性(Flexibility)
決意していることが大切とはいえ、「夢は絶対に諦めない」と執着している感じなのはだめ。スタートアップの世界は変化が激しいから、状況に応じて夢を調整できるようでないといけない。

GreplinのDaniel Grossがよい例。彼は電子商取引の悪いアイディアをもってYCに応募してきた。他のことをやるなら出資してやると言ったら、すんなりOKと受け答えて新しいアイディアを次々と出してきた。


創造力(Imagination)
もの凄く新しいアイディアを思いつく能力は、既存の問題を素早く解決する能力よりずっと重要。スタートアップの世界では、よいアイディアというのは始めのうちは悪く思える場合が多い。明らかによいアイディアであるのなら、もう誰かが既にやっているだろうから。だから、丁度よい加減にクレイジーなアイディアを思いつく能力が必要なのだ。

自分の部屋や倉庫など、空いているスペースをホテルのように希望期間貸出するオンラインサービスのAirbnbがよい例。他人の部屋に泊まりたい人がそんなにいるとは想像もしなかったが、ファウンダーたちがすごく気に入ったからとにかく出資してみたところ、このアイディアのクレイジー加減は正しかったことが証明された。


いたずらっ子であること(Naughtiness)
起業家の大半は善良な人間だが、目の中を覗いていみると海賊のようにギラギラしている傾向がある。道徳観はあるが、クソ真面目ではない、要するに「いたずらっ子」だ。ルール破りは大好きだが、絶対にやってはいけないことはわきまえている。

LooptのSam AltmanはYC卒業生の中でも特に優秀な人物なので、彼に「君のような人材を発掘するには、Y Combinatorの応募用紙にどんな質問を書いておいたらよいのだね?」と訊ねてみた。彼は「これまでにハッカー行為をしたのはどんな場面か質問すればよい。」と答えた。今では、この質問はYCが応募者を選抜するときに判断材料とする最も重要な質問事項となっている。


記事のコンテンツは以上。シリコンバレーにいると、四番目の「いたずらっ子」というのは起業云々にかぎらず、新しいアイディアがおふざけから誕生することは非常に多い。エンジニア同士がふざけて作ったプロジェクトが本番になってしまったということは自分にもあったし、今世の中でヒットしているテクノロジーやサービスでも枚挙にいとまがない。そして、更に大切なのはそうした「おふざけ」を受け入れる周りの環境だと感じる。エンジニア同士の「おふざけ」を面白がってどんどんやらせてくれる上司や会社のカルチャー、そうしたものが新しいものを次々と生み出すシリコンバレーの大きな原動力の一つになっているのだ。

October 20, 2010

Y Combinator Startup School 2010



Y-Combinatorが主催する、起業家を対象としたカンファレンスStartup Schoolが今年も開催された。スケージュール表からもわかるように、スピーカーは、Y-CombinatorのPaul Graham、GrouponのAndrew Mason、LinkedInのReid Hoffman、エンジェル投資家のRon Conway、FacebookのMark Zuckerbergなどなど錚々たる顔ぶれである。

講義はすべてライブで生中継公開され、録画も各スピーカーごとのものをこちらのサイトで観ることができるようになっている。

どのスピーカーの話もそれぞれ興味深いが、主催であるY-CombinatorファンダーのPaul Grahamの話をちょっとご紹介しておく。

Paul Grahamはスピーチの最初に、「ノートは取らなくてもいいよ、後から自分のメモをウェブで公開するから。君たちが自分で取るメモが僕のものよりいい訳がないからね。」と冗談を言って会場を笑わせていたが、約束どおり後日こちらの彼のブログサイトで要約が公開された。実際の講演のコンテンツをほぼ全てまとめてあるので録画を観るより効率がよい印象。

講義の要点は、ここのところスタートアップビジネスへの投資環境に激変がみられ、その原因はスーパーエンジェルとベンチャーキャピタリストとの間の競争が原因だという話。

「今まではエンジェルとベンチャーキャピタリストという2種類の投資家しか存在しなかった。エンジェルは自分の資産の中から少額を投資してくれる金持ちの個人で$20K~$50Kの投資をする場合が多い。一方、VCは$1 Millionだとかそれ以上の巨額のお金を投資し、そうした投資資金は人から集めたものである。

ところが、スーパーエンジェルという人たちが出現し始めた。エンジェルとVCの役割を掛けあわせたような存在だ。大抵は、従来のエンジェルのように個人がやっており、VCのように人から集めたお金を投資する。よって、スーパーエンジェルたちはエンジェルたちよりも巨額のお金を投資し、その額は大体$100K程である。スーパーエンジェルたちは、エンジェルのように投資の決断を素早くし、投資先への投資回数も頻繁に行う。

VCのように他人のお金を投資し、エンジェルの強みである投資スピードの速さを実現したスーパーエンジェルの出現は、VCにとって驚異になっている。VCとスーパーエンジェルがお互いに競争し合い、スーパーエンジェルはより巨額のお金を投資するようになり、VCが少額のお金をより素早く投資していくことで、何年か後にはお互いの役割がより似通ったものになってくるだろう。

投資家同士の競争は、起業家にとって朗報である。競争は顧客にとって有利な条件をもたらすが、そうした単純な理由だけではなく、VCとスーパーエンジェルの対立が引き起こすルールの変化が起業家にとって有利なものになるだろう。

いずれにせよ、少なくともこれから数年はスタートアップへの投資ビジネスはヒートアップし、大規模なマーケットクラッシュでもないかぎりはスタートアップが資金調達するのに絶好の環境になる。従って、これからスタートアプが乱立してバブルのようになるだろう。」

かいつまんで話すとざっとこんな感じだが、実際の数字を出しながらの説明も含めてかなり面白いのでご興味のある方は是非録画を観るなり要約を読むなりしてみてください。投資環境の変化が発端でもたらされるスタートアップバブル、インターネットバブルの次はこれか?


リンク集:
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Startup Schoolの全講義録画
Paul Grahamの講義録画
Paul Grahamの講義要約
Startup Schoolの撮影写真


October 7, 2010

DropboxとiPadの相性


今更のようだけれど、Dropboxがとても便利。

プログラマの人など、ソースコントロールのシステムを使い慣れている人にはお馴染みのコンセプトを簡略化し、誰にでも解りやすいUIと共に提供しているところが凄いオンラインストーレッジのサービスだ。類似のサービスは他にもいろいろあるが、私はこれが一番気に入っている。Y Combinator出身のベンチャーでSequoia Capitalも出資している。

Dropboxは、ストーレッジというよりも、サイズの大きいファイルを誰かに送りたいときのトランスファーフォルダとして活用することが多かったが、iPadを買ってからはそのためのファイル置き場としての利用頻度があがっている。私の所有しているiPadのモデルは16GBなので、「自炊」したPDFファイルなどをせっせとリーダーアプリの本棚に取り込んでいるとあっという間に容量オーバーになってしまう。そこで、入りきらない予備軍のファイルをDropboxに置いておくのだ。DropboxはWindows、Macintosh、Linuxだけでなくモバイル用OSもサポートが充実しており、もちろんiPad用アプリケーションもある。iPad用のDropboxでファイルを開くと、BookmanCloudReadersなどのリーダーアプリに取り込むためのメニューコマンドが表示されるので、そこから各リーダーアプリの本棚にファイルを取り込む。i文庫HDの最新バージョンでは、Dropboxアプリを立ち上げなくても、Dropboxサーバから直接文書を取り込む機能も付け足されているのでより便利 - この機能は他のリーダーアプリでも早く実装されて欲しいものだ。

iPadを買って、そこにネイティブに開放されたファイルシステムがないことに戸惑う人は多いよう。だから、ファイルをiPadのアプリに取り込む方法をあれこれ考えることになる。iTunesに接続してファイルを取り込むのが苦痛かつエレガントでないのは周知の事実。iPad自体のハードディスクの容量も考えると、どこからでも手軽にアクセス出来る場所にコンテンツを置いておきたい。こんな状況で、DropboxのようなサービスはiPadととても相性がよいと思う。Dropboxに置いておけばiPhoneやAndroidからでもアクセスできるし、状況によって違う端末から同じコンテンツにアクセス出来るこうした使い勝手のよいサービスはこれからますます手放せなくなりそうだ。



** 現在Dropboxのサイトは英語だけのようなので、Dropboxって何という人はこちらだとかこちらの日本語で解説してあるサイトが参考になります。