November 27, 2011

【書評】「自分のアタマで考えよう」

自分のアタマで考えよう
ちきりん
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 26


知り合いのブログで話題になっていたので読んでみました。

論理思考の本です。少子化などの社会問題からはじまり、婚活や主婦の料理プロセス比較などにまでもフレームワークをあざやかに使って分析しているのが面白いです。問題をどんどん分解して漏れなくダブりなく分類、収集したデータをあてはめ、グラフを使って視覚的に分析。問題を電動ミキサーにかけるがごとく、バリバリと論理的に解いていくのが痛快です。「知っていること」と「考えること」はまったく別モノであることを説明する序章から始まりますが、日常で物事を判断するときに、知識から結論を下さず、ちゃんとデータをもとに論理的に考えて仮説を検証していく癖をつけなければならないな、と意識させてくれる本です。ネットの力を借りれば、かなりのデータを誰でも収集できるようになった今、それを効果的に分析して論理的に「考える」力をつけることは重要なスキルとなるでしょう。

最近、日本からシリコンバレーを訪問中の大学生さんと就職やキャリアパスについて話す機会がありました。偶然そのときに話題になったのが、ちゃんと自分で「考える」ということ。世間一般、マスコミで騒がれていることが間違っていることは多々あります。その大学生さんを相手に私が話題にしたのは、「商社不要論」と「ソフトウェアエンジニアのアウトソーシング」について。日本でバブルが崩壊したころから商社不要論がマスコミで取り上げられてきました。けれども、それから20年ほどが経過した今でも総合商社はなくなってはいないし、最近の日経新聞に掲載されていた学生の人気就職ランキングでは伊藤忠商事がトップでした。「ソフトウェアエンジニアのアウトソーシング」が叫ばれ始めたのは、アメリカでドットコムのバブルが崩壊した2000年ごろ。そのまっただ中、シリコンバレーでソフトウェアエンジニアをしていた私は、変だなぁと思っていました。少なくともシリコンバレーにおけるソフトウェアエンジニアと呼ばれる仕事は、あらゆる技術的ソリューションをリサーチしながらコードに落としていくような仕事。マーケットや社内のフィードバックを迅速にとりいれて検証しながらアウトプットを出していく。ソフトウェアを主力とした企業では中枢になる機能です。ハードウェアのように、組立の詳細を仕様に落し込み、あとは工場で組み立てるだけのプロセスがアウトソースされるのとはまったく事情が違うのです。当時ソフトウェアエンジニアの仕事が先進国からなくなると言われ始めたので、大学のコンピューターサイエンス学科では人が集まらなくなって定員割れしたりしました。ところが、やはり物事の真実の原則は変わらない、アウトソースではダメだと後になって皆が気づきました。2011年の今、シリコンバレーでソフトウェアエンジニアはどこの企業でも引っ張りだこ、コンピューターサイエンスは大学の超人気学科です。

日本の教育を受けると、「考える」ことよりも「受け入れる」ことを選択してしまう方向に流れがちですが、「考える技術」を日常でも意識して積極的に取り入れていかなければならないですね。ふつうはビジネス書などで扱われるフレームワークの応用の説明などを、ビジネス書としてではなくカジュアルな雰囲気で誰でも手にとって読みたくなるような雰囲気にしてあるところも素敵な本書ですが、論理思考がより多くの人に馴染みのあるものになれば世の中も変わってくるかもしれませんね。

November 25, 2011

WithingsのWi-Fi体重計とライフログのすすめ

前回のエントリーでは、Jawbone UPのプロダクトレビューを書きましたが、今回も健康用ガジェットのレビューから。少し前から使っている、WithingsWi-Fi Body Scaleがすごく調子いいです。周りの人たちがみんな[*]持っているので、つられて買ったこの体重計、どうしてもっと早く買わなかったんだろうと思うぐらい秀逸です。ちょっと安直な感じがする製品名のとおり、乗るだけで体重と体脂肪の測定結果がWifi経由で自動的にウェブアカウントに送信記録され、グラフ化されます。過去の記録は、ブラウザ、iPhone・Androidアプリで確認できます。体重を毎日測り、手入力で記録をつけてもよいのですが、やはりちょとしたところで自動化すると継続し易いです。健康や美容のために体重を減らすもしくは維持するには、記録とその数値をグラフ化するのがどれほど効果的かはよく知られていることですが、他の何をするよりもまずこの体重計を手に入れるべしといっても過言ではないかもしれません。

WiFi Body Scale WBS01 [PC]
WiFi Body Scale WBS01
posted with amazlet at 11.12.16
Covia
売り上げランキング: 3044


 Withings Wifi Body Scale [米国]

Jawbone UPと併用してかなりいい感じですが、かのMichael Arringtonもこの2つを愛用しているご様子。体重、食事、運動量のログは、何年も記録し続けることで長期的な健康管理にも役立ちそうです。

先日、gihyo.jpさんに「人生の記録〜ゴードン・ベル」という記事を書かせていただきました。8月に開催されたエバーノート技術カンファレンスのセッションをまとめたもので、MicrosoftでMy LifeBitsという究極のライフログプロジェクトに長年取り組んでいるゴードン・ベルの話です。記事にも書きましたが、このプロジェクトでは、ゴードン自身が被験者となって、身の周りにある本,書類,写真,CD,画像など日常のあらゆる情報をデジタル化して記録する生活を続けます。ゴードンは、近いうちに皆が自分と同じことをやっている日が来ると言っていますが、私自身も近頃の生活では、Jawbone UPで運動・睡眠・食事を記録、Withingsで体重を記録、Foursquareで訪問先をチェックイン、Lemonでレシートをスキャン、Mintで家計を記録、ウェブで読んで気になった記事をブックマーク・クリップ、なんてことをしているので、彼とさほど変わらないことをやっていますね(笑。もちろん、世間でも同じような生活をしている人は多いでしょう。

My LifeBitsプロジェクトは1945年にヴァネヴァー・ブッシュが「As We May Think」という論文で発表したmemexをモデルとしたもの。ヴァネヴァー・ブッシュはマンハッタン計画に参加し、原子爆弾の開発に携わった人物として知られ、Webのハイパーテキストの概念もこの論文に影響を受けています。「As We May Think」の原文はこちらで全文が無料で読めるようになっていますが、以下はそこにあるmemexの描写の一部です。日本語訳は「思想としてのパソコン」に収められているようです。

"A memex is a device in which an individual stores all his books, records, and communications, and which is mechanized so that it may be consulted with exceeding speed and flexibility. It is an enlarged intimate supplement to his memory. 
It consists of a desk, and while it can presumably be operated from a distance, it is primarily the piece of furniture at which he works. On the top are slanting translucent screens, on which material can be projected for convenient reading. There is a keyboard, and sets of buttons and levers. Otherwise it looks like an ordinary desk.
In one end is the stored material. The matter of bulk is well taken care of by improved microfilm. Only a small part of the interior of the memex is devoted to storage, the rest to mechanism. Yet if the user inserted 5000 pages of material a day it would take him hundreds of years to fill the repository, so he can be profligate and enter material freely."

これらプロジェクトの話は、ゴードンの著書「Total Recall」に詳しく書かれていて、「ライフログのすすめ」という題名で日本語にも訳されています。ゴードンが共同研究者のジム・ゲメルと書いているブログサイトも、Facebookのタイムラインのことなどが取り上げられていて面白いです。

記憶力の限界を超えて見るもの聞くもの全てを記録するようになり、必要なことはすべて検索して取り出せる。半世紀も前の構想がかなりリアルに感じられるようになった今、これら関連書籍をまとめて読んで、「記録」することから広がるあらゆる可能性について考えてみたいと思いました。


ライフログのすすめ―人生の「すべて」をデジタルに記録する! (ハヤカワ新書juice)
ゴードン ベル ジム ゲメル
早川書房
売り上げランキング: 61070



Total Recall: How the E-Memory Revolution Will Change Everything


思想としてのパソコン
思想としてのパソコン
posted with amazlet at 11.11.26
西垣 通 フィリップ ケオー A.M. チューリング ダグラス・C. エンゲルバート テリー ウィノグラード ヴァネヴァー ブッシュ J.C.R. リックライダー テッド ネルソン
NTT出版
売り上げランキング: 418734



--------------------------------------------------------------
*ここでいう「みんな」とは、ガジェットオタク系の人たちなので、他では誰も持っていないかもしれません。

November 18, 2011

Jawbone UP プロダクトレビュー


先週7日にJawboneから発売されたフィトネス用のリストバンド「UP」を使ってみました。

Jawboneは小型でスタイリッシュなヘッドセットなど、Bluetoothを使ったアクセサリ製品で有名ですが、起業にまつわる某カンファレンスセッションでセコイヤキャピタルのパートナー、ロエロフ・ボーサ氏が「長くやり続けたから勝てた」というスタートアップの例にも出てきます。ロエロフ氏いわく「長くやり続けるより、早く止めすぎるほうがリスクが高い。起業家というのは普通の人よりも早く気づく人たちだ。マーケットが成熟するまでもう少しやり続けるほうが正しい場合が多い」という話でした。Jawboneはスタンフォード大学の学生2人がノイズキャンセリングヘッドホンのアイデアを題材に'99年に創業したのですが,当時はBluetoothの技術がなかなか進化せずマーケットのタイミングが悪く倒産。しかし創業者たちは諦めませんでした。そうこうしているうちにBluetoothの技術がついに成熟して会社を再建することができたのです。[1]

さて、はじめから話がそれてしまいましたが、今回発売になったリストバンドは在庫が追いつかないぐらいの人気です。先週7日に発売されて、まだそれ程長い間使った訳ではないですが、今のところの使用感をざっと書いておきます。


使い方はシンプル。リストバンドをつけて生活し、iPhoneのアプリと組み合わせて使います。そうすることで、睡眠、運動量、食事のパターンを測定および記録し、健康状態の改善を目指します。

[運動]

要は万歩計。何歩歩いたかをリストバンドが測定し、結果を専用のiPhoneアプリで見ます。ジムに行って運動したりする場合、リストバンドのボタンを2度押しすることによって、その期間内だけの運動量を区切りをつけて測定することができます。

[睡眠]

リストバンドをつけて寝ると、熟睡状態とそうでない時のパターンを測定してくれます。目覚まし機能を設定すれば、そのパターンの切り替わったところで振動して起こしてくれます。 睡眠パターンは、寝ている間の身体の動きの頻度を元に単純に測定しているだけなので、いわゆるノンレム、レム睡眠のサイクルとは必ずしも一致しないとのこと。

[食事]

食事の機能はリストバンドに依存していません。食事をする度にiPhoneのアプリで食べ物の写真を撮ってアップロードするだけ。数時間すると、その食べ物を食べた後の気分はどうかと尋ねる通知がプッシュ機能で来るので、ふさわしい気分を表している顔アイコンを選びます。


リストバンドをiPhoneのヘッドフォーンジャックに挿し込んで測定結果をソフトウェアと同期するのですが、そうすると、睡眠、運動、食事のパターンが時系列でグラフ上に表示されます。一定期間分のデータを俯瞰して見ることにより、パターンを知り改善点を明確にするのに役立ちます。


こうした健康グッズを使い始めると、とりあえず健康に対する意識が高まるのはとてもよいです。一日何歩歩くかなどの目標設定ができるので、それを目指して積極的に動くようになりますし、何を食べるかにも意識が向きます。ダイエットに毎日の体重測定の結果を記録するのが効果的なのと同じで、「記録」することの効果を感じますが、そのプロセスを楽しく効率よく実行させてくれる製品です。

リストバンドには振動によるアラーム機能がついていますが、大変気に入っています。私は朝は大変弱く、毎朝起きる時は大変な苦痛なのですが、目覚まし時計の音はこの世で最も嫌いなもののうちの一つといってもよいくらい、吐き気を催すほど嫌。これは「音」によって眠りからひきずり出されることに非常な不快感を感じるからなのでしょうが、リストバンドの振動だと気持よく目覚めることができるのです。睡眠サイクルのタイミングのよいところで起こしてくれるということもありますが、音より振動の方が目覚めにソフトな刺激だというのはちょっとした発見でした。また、リストバンドの振動アラームは、目覚まし機能のためだけではなく、起きている間に活動を促すためにも利用する設定ができ、これが最高です。間隔は15分や1時間など自由に調整でき、設定した間隔を過ぎても動かずにいると振動で知らせてくれるのですが、この機能、一日中座りぱなしでコードを書いているようなエンジニアなどにすごくお薦めです。私にも経験がありますが、長時間同じ姿勢でコンピューターに向かっていると、首や肩の関節、神経を痛めたり、腱鞘炎になったりして大変なことになります。そうした場合、医者に行くと「一時間に一度は必ず立ち上がって動いてください」と言われますが、仕事に没頭していたりすると忘れてしまいます。このリストバンドがあればその問題も解消できます。UPと類似製品のfitbitとの比較が多くなされているようで、そちらも気になりますが、UPのこの振動機能はポイントが高いです。

fitbitと違い、iPhoneアプリとの同期はワイヤレスではありませんが、Bluetoothを使った秀逸なアクセサリの開発で知られるJawboneの製品ですから、将来的には何かアップデートを考慮しているのかどうか気になるところです。

完全防水なのでプールやシャワーも大丈夫と説明書にありますが、私はシャワーはかなり高温なので入浴中は外します。高温には弱いと書いてあるので、日本の湯船などもダメかもしれませんね。リストバンドは常時つけていてもそれ程気になりませんが、ある程度パターンが把握できるようになったら、睡眠時間だけ常用して、あとは適宜軌道修正するときだけ着装するということになりそうです。

マイナス面は、iPhoneアプリの出来が未熟だということ。バグもまだあちこちにあるし、UXも改善すべきところがかなり目立ちます。まあ、その辺りのソフトウェアの問題はこれからアップデートをリリースしてくれることを期待しています。食事のところもカロリー計算などもう少し工夫が欲しいところです。あと、今のところiPhoneアプリだけですが、ウェブアプリもあると便利かなと思います。

以上、まだ使用した期間は短いですが、かなり満足度は高いです。お値段は$99.99で、ちょっと高いような気もしますが、風邪をひいただけでも生産性の低下などを考慮すれば損害は$99.99ではすまないはず、と考えれば健康に投資する額としてはリーズナブルでしょうか。アメリカ人は健康に対する意識が異常に高いことで国際的にも有名ですが、彼らいわく「健康のためなら死んでもいい」のスピリッツを少し見習って頑張ってみましょう、という気分にさせられた健康用ガジェットです。



---------------------
** 今回は「です、ます」調で書いて見ました。
[1] 8月に開催されたEvernote技術カンファレンスの記事をこちらで書かせていただきました。

November 16, 2011

【書評】知的生活の方法、今と昔 〜 Kindle Fireが発売されたので

先日、Kindle Fireが正式に発売になり、ネットはその話題で持ちきり、周りの友人の多くもAmazonから届けられたその新ガジェットに夢中になっているようである。私は購入する決心がつかず、予約注文をしないまま今日まできてしまって、手元に何もないので今回は書評でも。


知的生活の方法 (講談社現代新書 436)
渡部 昇一
講談社
売り上げランキング: 11517


「知的生活の方法」、ちょっと気恥ずかしくなってしまうようなタイトルである。本屋のレジに知り合いが座っていたら購入をためらってしまうだろう。「xxの方法」といった題名の本は、さらりと実用的に書かれた軽い内容のものを連想しがちだが、英語学者の渡辺昇一氏が書いた本書はさすがにそんなペラペラとしたものではなく、文学的というか文化的情緒に溢れた一冊である。「読書の愉しみと重要性」が主なテーマとなっているこの本では、外国語で書かれている書物の読み方からはじまり、本の収集や管理法、後半ではカントやゲーテの私生活についての考察まであり大変味わい。例えば、カントは毎朝かっきり5時15分前に召使に起こしてもらい、起きると紅茶を2杯飲み煙草を一ぷくすう。夜は10時に就寝する7時間睡眠。脳の疲労予防にチーズを愛好したという食事メニューのサンプルなど、面白い話がたくさん出てくる。

渡辺氏は、本は読みたいときに取り出せることが重要であり、「知的生活とは絶えず本を買いつづける生活である。したがって知的生活の重要な部分は、本の置き場の確保ということに向かざるをえないのである。つまり空間との格闘になるのだ。」という。成功している学者や作家は、手許に膨大な書物を持っていて、それらの文献をいつでも参照することが出来る、つまり手許に本を置くことが力になっているというのである。プライベート図書館を数千万や億単位の金をかけて建てることができる流行作家と一般人では、経済力、空間力が違う。例えば、トルストイは「戦争と平和」を書くために、小さな図書館ぐらいのナポレオン戦争の資料を集めて手許に置いたそうだが、他にも書物を置くだけのためにマンションの一室を借りるだとか、図書館を庭に建てるだとかの話が挿絵入りで解説されている。


知的生活 (講談社学術文庫)
渡部 昇一 下谷 和幸 P・G・ハマトン
講談社
売り上げランキング: 70312


「知的生活の方法」は1976年発行であるが、ハマトン著の「知的生活」をモデルに書いたのだと渡辺氏はいう。ハマトンの「知的生活は」1873年が初版であり、ビクトリア朝のイギリス人を対象に書かれた良書なのでそれを現代風に、「本書はハマトンにくらべれば小さい本ではあるが、彼にならって、私の体験をもとにして率直にまた具体的にのべた」と前書きにある。さて、渡辺氏が書いたのはハマトンから100年が経ってからだが、それからたった35年ほどで書籍の世界には大革命が起きようとしている。15世紀のグーテンベルグによる印刷技術の普及からずっと続いた紙の本の歴史に、ついに電子書籍による大変革が起きたのである。渡辺氏が説く「情報の収集」と「書籍を管理するための空間力」は莫大な富や権力を持っている人だけの特権ではなくなりつつある。置き場所がなくても、世界中の何処に住んでいようとも、ネットにアクセスできて電子書籍リーダーがあればトルストイや他の成功している作家と同じような蔵書を持つことが可能になったのだから。2007年に出版された梅田望夫氏の「ウェブ時代をゆく」のなかで、梅田氏は「知的生活の方法」で渡辺氏が主張している「蔵書を持ち続けることの重要性」の一節を取り上げ、次のように述べている。

「ネット上にアレキサンドリアの理想通りの万能図書館が誰にも無償で開かれる時代には、そのことの意味も相対化されていく。充実した知的生活を営むためには、そこに注ぎ込み得る時間こそが希少資源となったのである。間違いなく十年後には、知的生活を送りたい人にとって最高の環境がウェブ上にできあがっているはずだ。環境をもつための努力ではなく、誰にも与えられる最高の環境をどれだけ活かせるかに知的生活のポイントが移行する。知的生活に惜しみなく時間を使えることこそが最優先事項となろう。」

渡辺氏は100年前に書かれたハマトンを当時の現代風に書きかえた。渡辺氏が「知的生活の方法」を書いてから約30年後、ネットによる世界の大変化とそこでの最新版知的生き方を記したのが梅田氏なのである。


ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
梅田 望夫
筑摩書房
売り上げランキング: 23647


November 13, 2011

アメリカの本当の強さ 〜 シリコンバレーの文化とPay It Forwardの精神


Pay It Forwardという映画がある。アメリカで2000年に公開されたこの映画、テーマが素晴らしいのに陳腐な恋愛物語になってしまっていたのが残念な印象だったが、その美しいテーマゆえに時々思い出す。11歳の少年が学校で「世界を変えてみよう」という宿題を出されるのだが、少年が考えたのは、誰かから親切にされたら、それをその相手に返すのではなく別の3人に親切にして伝えようということだった。親切にされた3人それぞれが、また別の3人に親切にすると、次は9人、そしてそれが27人になりという具合に累乗で無限に増えて行って世界がよい方向に変わると少年は考えたのだ。

私はアメリカに始めてきた時に、このPay It Forwardの精神をカルチャーショックの一つとして感じたのを鮮明に覚えている。異国からやってきた私に対して、見ず知らずの人が親切にしてくれ、必要な情報や物を無償で提供してくれるのだ。要するにボランティア精神なのだが、そこには見返りに対する期待は全くない。むしろ、お礼をするとちょっと驚かれることの方が多い。日本人は親切な人が多く「恩返し」の風習がある。「鶴の恩返し」だとか、「恩返し」をテーマにした日本独自の寓話の多さにもそのカルチャーは表れている。日本は国土が狭く、古来定住民族なので恩を受けたら、同じ相手にお返しをすることが容易だ。しかし、移民で構成されているアメリカの歴史とカルチャーを考えれば、むしろ同じ人に恩返しをしようと思ってもそれは難しい場合のことの方が多い。西へ西へとフロンティアの開拓を進めてきた時代に始まり、今でさえ、この国の人は実によく引越しをする。移民としてやってくる人たちは、この国に到着したときに誰も知り合いがいないことも多い。そんな風土で育まれてきたカルチャーがPay It Forwardなのだろうが、私はそれがこの国が繁栄してきた理由とその本当の強さなのだとつくづく思う。同じ人の間で完結してしまわないで、よいことはどんどん次々と先送りして伝えていく。それが結果として全体をよくすることになり、自分も世界も幸せになる。日本の恩返しの文化も美しいと思うが、ちょっとこのPay It Forwardの精神も取り入れてみれば、狭い国であるがゆえ、その効果も伝播速度と循環も速いだろうから、ポジティブな効果がてきめんに現れるかもしれない。

さて、先日JTPAで「日本人のシリコンバレーでの起業について」というテーマで本間毅さんに講演していただく機会[1]があったのだが、本間さんはその講義でもブログでも「 頂いた恩を、次の世代にかえしたい 」ということを強調されている。

起業した頃、お世話になっている先輩経営者に尋ねたことがある。「僕はまだお金もないし、そうやって助けてくださったことに対して、どうやって恩返しをすれば良いのでしょうか」 
彼は言った「そんなことは気にしなくて良い。君がいつか誰かを助けてあげればいいんだよ」と。思えば私はその言葉に忠実にやっているだけだ。

こんなこともきっかけで、忙しい仕事の合間にボランティアで起業家の支援をされているという本間さんが起業されたのは日本だから、これは日本人の方からのアドバイスなのだろうが、結局シリコンバレーの起業にまつわるエコシステムもすべてこの「次に伝える」という精神が中心にある。

AppGrooves Inc.を共同創業し、シリコンバレーの日本人起業家として活躍されている柴田尚樹さん[2]も、いつも同じようなことを言っている。「ここ2ヶ月間くらいで、一生かかっても恩返しできないんじゃないかというほど、いろいろな人に助けていただいているのです・・が、これってやはり自分よりも若い人に同じようにしてあげる以外に方法ないですよね。」

本間さん、柴田さん、とご紹介したので、シリコンバレーでPay It Forwardのスピリッツ的活躍をされている日本人をもうひとり。上杉周作さんだ。上杉さんも10月にJTPAで講演してくださったのだが、目下Quoraのエンジニアとして活躍中、Facebookでは「ちびこーど」というサイトを運営し、日本にいる若い人達のために様々な教育関連の講義や議論を展開している。最も最近では、「日本のITスタートアップの方へ。パワポと資料送ってくれたら、タダで英語のピッチ作ります。」という試みで日本の起業家の支援をしている。彼はまだ23歳、並外れた行動力とインテリジェンスの持ち主である。ちなみに、JTPAではほぼ毎月ギークサロンなどのイベントを開催しているが、来月12月は上杉さんに企画の運営ボランティアをお願いさせていただいた。何でもご自由に、好きなようにやってくださいと伝えてあるのだが、どんなテーマになるのかとても楽しみだ。

私自身も、アメリカに来てからこのPay It Forwardのカルチャーを肌で感じ、実に多くの人たちに親切にしてもらい、先輩達からチャンスをもらってやってきた。JTPAでのボランティア活動もその一環なのだが、これからも次の世代の人たちに自分がもらったものを伝えていきたい。



-------------------------------------------
[1] 本間さんの11月11日のJTPA講演での録画とプレゼン資料はこちら
[2] 柴田さんの日経Bizアカデミーでの連載、「シリコンバレー起業日記」がすごく面白いです。シリコンバレーにおける起業のエコシステムがよくわかります。

November 8, 2011

イベントのお知らせ:「日本人のシリコンバレーでの起業について本間毅氏と語る」


今週金曜日(米国西海岸時間 夜7時30分開演)に、JTPAで以下のイベントを開催いたします。ご興味のある方は是非ご参加ください。USTREAMにて中継しますので、会場に来れない方もご覧になれます --- いつもどおりボランティアの四元さんがライブキャストしてくださいます。詳細と申込み方法はこちらから。

なお、今回のイベントは次のボランティア・スタッフの方々にご協力いただいております: [オーガナイザー] Jin Yamanaka [機材・音響] Hiro Yotsumoto [その他コーディネート・企画] Hideaki Hayashi, Sho Tabata, Hitoshi Ishiwata, Marika Gunji, Sunny Tsang [グーグルカレンダー・Twitter] Tomoko Fukuzawa [会計] Yoshiko Hugehes [会場スポンサー] Wilson Sonsini Goodrich & Rosati


===========================================
JTPA ギークサロン
「日本人のシリコンバレーでの起業について本間毅氏と語る」

11月11日金曜日 午後7時 Palo Alto
===========================================

11月のギークサロンでは、自ら学生時代に起業した経験と日米でのビジネス経験をもとに日本人起業家の支援を行っている本間毅氏をお迎えします。
シリコンバレーに挑戦している日本人の若者の現状や本間氏のサポート活動をご紹介頂き、またシリコンバレーで起業することの意味や難しさ、可能性、そして日本人エンジニアが起業にどう関わって行くのが良いかについて本間氏にお話頂きます。

スピーカー: 本間 毅 (ほんま たけし)氏
------------------------------------------------------------------
1974年生まれ。中央大学在学中から起業し1997年にWebインテグレーションを行うイエルネット設立。
黎明期のビットバレーやピーアイエム株式会社(後にヤフージャパンに売却)の設立にも関わる。

2002年、イエルネットの全営業権を譲渡し、2003年に大手家電メーカーに入社。
ネット系事業戦略部門、リテール系新規事業開発等を経て2005年よりグループ内のネットメディア開発に携わる。
社外ベンチャー企業との協業により、Web2.0やBlog/SNS系テクノロジの社内導入を推進する。

2008年5月よりアメリカ赴任。サンディエゴ在住を経て現在はサンノゼに勤務。
電子書籍関連の業務に携わる傍ら自らの起業経験と日米でのビジネス経験をもとに日本から訪れる起業家の支援を行っている。
専門領域はインターネットビジネスやネットメディアだが、事業戦略や新規事業創出の観点からも具体的なアドバイスを提供している。

http://about.me/thonma
------------------------------------------------------------------

アジェンダ
------------------------------------------------------------------
・本間氏は何故スタートアップの支援をしているのか。その理由と氏のサポート活動の内容について。
・現在の日本の若者が何を考え、何を目指しているのか。彼らのシリコンバレーへの進出状況について。
・シリコンバレーで起業することの意味、難しさ、可能性などについての本間氏の考え。
日本人エンジニアが現地での起業にどのように関わっていくと面白いか。
------------------------------------------------------------------